― 港区では、みなとCKD連携の会の活動をさらに一歩前に進め、糖尿病性腎症への早期介入に向けた新たな取り組みがスタートするとお聞きしています。
竜崎先生 はい。厚生労働省が糖尿病性腎症の重症化予防を推進する中、ターゲットを糖尿病性腎症の第2期、早期腎症期に絞り、港区、港区医師会、保健所がタイアップして「港区微量アルブミン尿検査」を開始することにしました。もともとは、東京都日野市で始まった取り組みをモデルにしたものです。
透析導入患者の原疾患でもっとも多いのが糖尿病性腎症ですが、早期腎症期であれば種々の治療によって寛解できる可能性が高いため、この段階での介入が重要となります。しかし、この時期に発現する微量アルブミン尿は、一般的な尿検査では尿蛋白(-)あるいは(±)になってしまい、通常の健康診断で検出することは困難です。そこで、糖尿病予備軍で早期腎症期の可能性のある人を抽出して微量アルブミン尿検査へと導き、糖尿病性腎症の早期発見、早期治療に結び付けようという試みです。
― どのような流れで実施されるのですか。
竜崎先生 図2に示すように、40歳以上の国民健康保険加入者で特定健診を受けた人の中から、ヘモグロビンA1c6.0%以上、かつ尿蛋白(-)または(±)の人をピックアップして「受診票」を送付します。それを使って、この検査の手上げ医療機関で微量アルブミン尿検査を受けていただき、尿アルブミン/Cr比30mg/gCr以上に該当した患者さんはみなとCKD連携の会の腎臓専門機関のいずれかに紹介してもらって、腎臓専門医が鑑別診断を行い、適切な治療介入につなげるという流れです。また、一般的には糖尿病網膜症は腎症より早く症状が現れますので、腎臓専門機関では眼底チェックも行います。場合によっては腎生検を行い、これらの結果を港区に報告します。検査を行った医療機関からのデータも港区に集める予定なので、今後、統計処理が進められれば非常に役立つ基礎データになるはずです。
― 健診で検出困難な値なのにどうして受診しなければならないのかと、対象者は戸惑うのではないでしょうか。
竜崎先生 はい。そこで、受診票といっしょに私が書いた「港区微量アルブミン尿検査のすすめ」という説明文を入れておきます。この時点で早期腎症が見つかって適切な治療を受ければ、約半数は軽快し、2割の方は早期腎症にとどまり第3期に進行しないことをしっかり伝え、検査を受けることを勧めています。検査費用は港区が負担してくれますし、微量アルブミン尿が陽性でも専門医受診によって原因を突き止めることができ、糖尿病であっても早期腎症であれば治療によって進行しない可能性が高いので、対象者にも非常に利点が多い取り組みです。行政としても、1人の透析患者さんにかかる年間約500万円の医療費の節減につながるのでメリットは大きい。本来なら2020年度に開始予定だったのですが、新型コロナウイルス感染症の影響で2021年度に延期することになり、少し悔しい思いではあります。
― 港区の場合、何人ぐらいの人が対象になると考えられていますか。
竜崎先生 2018年度の国保加入者の特定健診受診者約13,600人中、ヘモグロビンA1c6.0%以上が2,220人でした。そのうち尿蛋白(-)または(±)の人を約1,900人と試算。日野市での検査受診率63.7%の実績から計算すると、港区では約1,200人が検査を受けると考えています。現在、港区の約120の医療機関が、微量アルブミン尿検査に参加すると手を挙げてくれています。早期介入の意義だけではなく、患者さん、病院、クリニック、行政の4者にメリットがある取り組みです。連携パスとともに港区のCKD重症化予防対策の柱になると期待しています。