― 関係構築のためにどのようなことを行っているのですか。
安田先生 まず、かかりつけ医の先生方に当診療科を知っていただくことから始めています。私たちは医療レベルにおいては地域で3本の指に入っていると自負していますが、そもそもどのような医師がどんな治療を行っているのかをご存知なければ、大切な患者さんの紹介先として選んでいただくことも、信頼していただくこともできません。
そこで、当院が講演活動とともに力を入れて行っているのが、地域の先生方への訪問活動です。私が地域連携室のスタッフと一緒に、腎臓内科や透析クリニック、糖尿病や循環器疾患を診ている開業医の先生方を中心に、年に1回訪問します。また、新規開院の情報が入れば、先生の専門領域を把握して開院のタイミングでアポイントを取り、どこよりも先に訪問するようにしています。
― 細やかな活動を行っておられるのですね。
安田先生 こういった訪問活動は、先生方と直接顔を合わせてお話しすることができる貴重な機会です。当院の治療体制をお伝えし、先生方からもいろいろなご相談をしていただける場になるように取り組んでいます。初めてお会いする場合でも、安心して紹介できると考えてもらえれば、その場で「適応の患者さんがいれば紹介します」と言っていただくことができます。また、CKD患者さんの初診は私が担当しているのですが、医師が多くいる病院には特定の医師名が無い紹介状が多い中で、ほとんどの紹介状に私の名前を記載していただけるようになりました。
コロナ禍で訪問活動は中断していますが、近年は、以前は全く紹介のなかったクリニックや病院からも患者さんが来られるようになりました。顔の見える関係が確実に拡がって、より多くの先生方から信頼できる病院として認めていただけるようになってきたのだと思います。
― 紹介患者さんをかかりつけ医にお戻しする際ですが、治療の変更などはどのようにお願いされるのですか。
安田先生 一方的にお願いするのではなく、治療の変更を受け入れていただきやすいように、十分な配慮を心がけています。たとえば薬剤の変更をお願いするときには、状態を悪化させている要因を説明し、「これについてはこのような効果が期待されるので、こういう薬に切り替えてもらえませんか」といったように、丁寧にお伝えします。ただし、専門的な薬への変更の場合は先生方の専門領域も考え、最初は当院で処方して、安定してから継続をお願いするようにしています。薬の準備にも時間がかかることがありますから、早めに打診しておくことも必要です。
― 安田先生はかかりつけ医への情報提供を重視し、徹底して行っているとお聞きしています。
安田先生 これは、私が透析を専門としていた頃の経験から培ったものです。中核病院である当院では、維持透析ではなく、救急や透析導入、合併症の治療が多く、初めての患者さんばかりでした。かかりつけ医の先生方に患者さんの情報提供を依頼しやすい関係をつくるためには、地域の集まりには必ず出席すること、そして、まず私から、きちんと情報提供を行うことが大切だと学びました。
今でも、紹介患者さんをお戻しするときはもちろんですが、安定した入院・退院であっても、必ずかかりつけ医の先生に手紙を書いたり、電話を入れたりして、当院で行った説明や治療、患者さんの現状をお伝えしています。患者さんの状況がわかれば先生方も安心ですし、地域に戻った時には治療を円滑に行うことができます。外来後に先生方へ書く手紙が10件になる日もありますが、このような情報提供を積み重ねることで、かかりつけ医の先生方からも経過のご報告などをいただける関係ができました。
― 情報の連携も重要だということですね。
安田先生 2020年度の診療報酬改定では、紹介先から紹介元への情報のフィードバックを評価した「診療情報提供料(Ⅲ)」が新設されました(2022年度診療報酬改定で「連携強化診療情報提供料」へ名称および要件変更)。これまで以上にかかりつけ医と専門医療機関の情報共有を強化し、連携を推進する必要があるということだと思います。しかし、診療報酬に関わらず、私にとってはこれまで当たり前に行ってきたことです。かかりつけ医と専門医が情報の連携を密にすることは、何よりも患者さんの治療のために必要不可欠な取り組みです。全国の各地域が工夫して情報のキャッチボールが進んできていますが、今後はますますICTの整備が進み、よりスムーズに情報共有ができるようになればと思います。
― 貴院では、「院内CKDチーム」が活動されていますね。
安田先生 多職種が活動する中核病院においては、チーム医療の推進も重要な役割です。特に、はじめにお話ししたように、患者数が多く、腎臓専門医が少ないCKDの重症化予防においては、多職種の力が必要です。当院の院内CKDチームは、教育入院に携わる多職種をまとめてきた看護師の島村にリーダーを依頼し、2019年11月に立ち上がりました。
島村先生 院内CKDチームのメンバーは、看護師、理学療法士、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師と事務スタッフです(図2)。看護師は病棟看護師も含めて4名おり、全員が腎臓病療養指導士の資格を取得しています。
講演会などでは、腎臓専門医が、「患者さんは生活者。医師だけではなく、生活環境を整えるスタッフが必要だ」と話すのをよくお聞きします。当チームでは、知識と技術を持ったメンバーがそれぞれの専門性を発揮し、互いに情報を共有しながら、包括的に患者さんの生活を整え、支えています。
― どのように介入する患者さんを絞り込むのですか。
島村先生 まず、入院時のデータから腎機能が悪くなっている患者さんを抽出します。その中から、臨床背景、社会背景などを検討して絞り込みを行い、患者さんのいる病棟と連携しながらチームが介入して、専門医の治療へとつなげます。チームが発足して約2年、活動が軌道に乗りだしてまだ半年余りです。今は介入する患者さんを10名以内に絞り、活動と同時進行で、介入の評価基準やフォロー内容など、仕組みの見直しと再構築を行っているところです。
安田先生 専門的治療が行われるかどうかで患者さんの予後が大きく変わります。腎臓専門医のいる病院として、診るべき患者さんをいかに治療に結び付けるか、その仕組みづくりに院内CKDチームが取り組んでくれています。
― 院内ではチームの活動は周知されてきましたか。
島村先生 当初は、多くの先生方に早く活動を知っていただくために、できるだけ各診療科でバランスよく介入するようにしていました。最近では、病棟に伺う予定の日に「診察が終わったのでお願いします」と連絡をいただいたり、先生のほうから気になる患者さんを報告していただくなど、当チームの活動が定着してきたと実感しています。
― CKD重症化予防での役割を広く担っているのですね。
島村先生 患者さんが「私の生活習慣や食事は正しいだろうか」「検査結果がよくなかった」など、不安を感じた時に頼りにできる、シェルターのような場所になることも私たちが目指す活動です。主治医や家族には遠慮して話しづらい治療や退院後についての不安を、院内CKDチームには相談してくれる患者さんもいます。メンバーが患者さんの声に耳を傾け、看護師がハブ的な立場となってチーム内で共有し、必要に応じて患者さんの思いを医師に伝えています。
今後は、地域の先生方にもチームの存在を知ってもらい、患者さんを紹介する際に、「院内CKDチームもあるから一度相談しておいで」と言ってもらえるようになればよいですね。将来は「CKDチーム外来」の開設も1つの目標です。
― 具体的にどのような運動療法を行うのですか。
山口先生 トレッドミルやウォーキングといった有酸素運動と、レジスタンス運動が主軸となります。
CKDの運動指導で重要なことは、患者さんそれぞれに合わせた運動の提案です。提案には主に2つの情報が不可欠です。1つは、栄養状態や検査値、服用している薬など、チームで共有している患者さんの情報です。私はこれらの情報から、患者さんに適した運動の負荷を考えます。
もう1つの情報が、患者さんの生活の様子です。運動指導は教育入院や外来で行っていますが、家ではなかなか続けてもらえません。初めの頃、「時間がなくて」という理由を聞いて、何に忙しいのか、患者さんの生活について何も知らないことに気づきました。そこで、最初に生活環境や趣味などをお聞きする時間をとるようにし、その情報から患者さんに合った運動を考え、それでも続けられなければ、マンションでは階段を使う、通勤は1駅手前で降りて歩くなど、日常の行動を運動に変えるような提案をしています。それができるようになって自信がつけば、レジスタンス運動を加え、運動が習慣化するように促していきます。
― 地域に戻ってからも運動の継続が必要ですね。
山口先生 やはり、一人で続けるのは難しいので、周囲の励ましやフィードバックが重要になります。今後は、運動療法について記載した連絡票を作って渡すのもよいかと考えています。それを見たかかりつけ医が、「よく頑張っているね。引き続き頑張って」と声がけしてくれれば、モチベーションも上がるからです。また、ご家族も巻き込み、週に1度でも一緒に運動してもらったり、一人暮らしの場合は電話で声がけをしてもらうようにお願いしています。私からは、筋力がついてきたなど、外来受診の際に少しでも良くなっていれば、「次はこうしてみよう」と提案し、運動の継続といつでも相談に来てもらえる関係づくりに努めています。
― 腎臓リハビリにおける運動療法は拡がっていますか。
山口先生 CKDの教育入院を行っている病院でも、まだあまり行われていないように感じます。当院の教育入院の患者さんの活動量を見ると、日頃から高活動の患者さんほど握力や足の筋力は高くなっています。心血管疾患、フレイルやサルコペニアのリスクを下げるためにも、運動療法は必要です。たとえば、診療報酬のリハビリテーションの評価として、生活習慣病などの慢性疾患を対象とした運動療法に少しでも点数がつけば、健康寿命の伸展にもつながっていくだろうと思います。
安田先生 診療報酬では、糖尿病で腎機能が悪化している患者さんへの運動指導については、「糖尿病透析予防指導管理料」の「高度腎機能障害患者指導加算」※3において評価されています。患者数が多いので難しいとは思いますが、糖尿病だけではなく、すべてのCKD患者さんを対象とした点数が新設されると、普及も進むと期待しています。
― CKDの重症化予防における、腎臓専門医がいる病院の役割、チーム医療の活動とその重要性がわかりました。
島村先生 CKDチームの活動も、全国に拡がってほしいですね。私はチーム医療の立ち上げに関わるのは初めてで、最初は大変でしたが、それを支えてくれたのもチームの仲間です。何よりも、患者さんが安心して治療に向かう姿を見ると、チームでのやりがいを感じます。やる気と覚悟があればできます。ぜひ、腎疾患に関わる多職種の方々に、チーム医療に取り組んでいただきたいです。
※2 「腎臓リハビリテーションガイドライン」編集者:一般社団法人日本腎臓リハビリテーション学会 発行:株式会社 南江堂
※3 糖尿病透析予防指導管理料は、糖尿病の外来患者に対する透析予防診療チームによる指導等を評価(月1回350点)。同管理料の算定患者で、eGFR(mL/min/1.73m2)が45未満の患者に対し、腎機能を維持するために運動の種類、頻度、強度、時間、留意すべき点等について医師が指導を行った場合などは、高度腎機能障害患者指導加算として100点を加算。