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地域に根差した糖尿病性腎症重症化予防対策とは
〜長野県松本市の挑戦〜

取材日:2022年8月19日

上條 祐司 先生

司会

信州大学腎臓内科 診療教授/
信州大学病院血液浄化療法部 部長

上條 祐司 先生

宮本 高秀 先生

 

宮本内科クリニック 院長
宮本 高秀 先生

駒津 光久 先生

 

信州大学内科学第四教室
(糖尿病・内分泌代謝内科)教授

駒津 光久 先生

(発言順)

人をつなぐ 医療をつむぐ

 日本は世界一の透析技術を誇る一方で、慢性透析患者の増加が課題となっています。患者の増加を阻止するため、厚生労働省は2018年に腎疾患対策検討会を開催、2028年までに年間の透析導入患者数を3万5,000人以下に抑えることを目標とした報告書を発表しました1)。それを受け、2019年から全国で糖尿病性腎症を含めた慢性腎臓病(CKD)の重症化予防事業が展開されています。血液透析が臨床に導入された翌年(1968年)に透析研究会が立ち上がるなど、透析研究に長い歴史を持つ長野県では現在、松本市を中心に2つの重症化予防事業が進行しています。各事業の意義と現時点での成果、今後の課題について、中心メンバーの3氏にお集まりいただき、腎臓専門医、糖尿病専門医、糖尿病を専門とするかかりつけ医の立場から議論していただきました。

医薬連携による松本市糖尿病性腎症重症化予防事業;
薬剤師による6カ月の指導で、自己効力感アップ、腎症ステージは維持

上條先生 松本市では2つの糖尿病性腎症の重症化予防事業を行っています。1つは2015年に開始された医薬連携による松本市糖尿病性腎症重症化予防事業(以下、医薬連携)、もう1つは、厚生労働省が策定した「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を同市で展開したものです。まずは医薬連携について、本事業を主導されている宮本先生からご紹介いただきます。この取り組みは新規性が高く、厚生労働省の事例集で紹介されました2)
宮本先生 本事業は、医師と連携した薬剤師が患者指導の中心となる特徴を有しています。現在、8期目が進行中です。
 対象は、参加に同意が得られた2型糖尿病性腎症2〜3期の患者さん。かかりつけ薬剤師が服薬指導に加え、生活習慣や自己管理などの保健指導を、月に1回6カ月間行います。1回30分ほどの面談ですが、コロナ禍においては電話での対応も可としています。指導後に薬剤師がコーチングレポートを作成、糖尿病療養指導士がレビューし必要に応じて薬剤師にフィードバックします。
 支援継続率は90%以上(第1〜4期)で、かかりつけ薬剤師による指導が支援からの離脱を防いでいると考えられます。本事業は継続率に加え、疾患の理解度や服薬遵守率なども評価していますが、特に重要視しているのが自己効力感です。自己効力感とは「自分は目標を達成する能力を持っている」と認識することで、高いほど目標が達成できる傾向にあるとされています。2017年7月時点でのデータでは、開始前の44.3点(75点満点)から6カ月後には50.6点へと上昇しました3)
 一方、体重、血圧などの生化学的指標の改善はあまり見られず、血糖値はむしろ高くなる傾向にありました。これは、指導期間に農閑期や運動量が低下する冬季が重なることが関連すると推測されます。腎症ステージは全員が支援前のステージを維持していました3)。このようにかかりつけ薬剤師による6カ月間の指導が、患者さんの自己効力感を高め、腎症ステージの維持につながったと考えられます。今後も本事業を続け、重症化を回避できる患者さんを増やしていきたいと思います。
上條先生 高い継続率は、もともとやる気のある患者さんが参加したからという面もありますか。
宮本先生 バイアスがかかっていることは否めません。
駒津先生 参加しない人をやる気にさせるアプローチを試みることも、参加者を増やす上では大切ですね。

糖尿病性腎症の進展には血糖より血圧が、
死亡には腎機能低下が関連

上條先生 長野県でも慢性透析患者の総数は年々増加し、新規透析患者数は横ばいというのが現状です4)。糖尿病性腎症の重症化予防には何が必要かについて、糖尿病専門医の立場から駒津先生にお話しいただきます。
駒津先生 糖尿病性腎症の寛解が期待できるのは微量アルブミン尿を認める第2期(早期腎症期)、遅くとも第3期(顕性腎症期)までとされています。したがって、早い段階で微量アルブミン尿を発見する必要がありますが、その方法は尿蛋白定性検査に限られます。当科では2〜3カ月に1回は尿蛋白定性検査を行い、「微量アルブミン尿あり」という結果が出れば尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の測定をルーチンとしています。
 私たちが行った血糖と血圧のどちらが微量アルブミン尿への影響が大きいかを検討した観察研究を紹介します5)。対象は初診時では未治療であった2型糖尿病患者273例(微量アルブミン尿なし179例、あり94例)で、8年間追跡して微量アルブミン尿と血圧および血糖の関連について検討しました。その結果、微量アルブミン尿の有無にかかわらずHbA1cは1年目から良好なコントロールが得られました。一方、血圧は微量アルブミン尿のある群でない群より高い傾向を認めました。
 次に8年間の微量アルブミン尿の推移で、開始時に正常から微量、顕性への悪化を「発症」(27例)、微量から顕性を「進展」(16例)、微量から正常を「改善」(20例)とし、血糖および血圧との関連を検討しました。HbA1c では「発症」および「進展」との関連性が見いだせませんでしたが、血圧は「発症」と明らかな関連が見られました(図1)。血圧が高い群ほど「発症」が増加し、血圧は極めて強い腎機能低下因子であることが認められました。また、収縮期血圧120mmHg以下群の44%が「改善」しており、糖尿病性腎症の進展予防に重要なことが示されました。
上條先生 血圧をどの程度下げるかは難しいですね。特に、高齢者や脳血管障害を有する患者さんでは過降圧の問題が出てきます。収縮期血圧130mmHg未満の降圧には注意すべきです6)
駒津先生 その通りです。私たちが長野県の高齢糖尿病患者388例(平均年齢72歳)を対象に行った前向き研究NaganoStudy7)では、血圧が高くなるほど6年間の死亡率が低かったのです。脳卒中既往の有無別にみると、既往例では血圧が高いほど死亡率が低いという全例と同じ現象がより強く見られ、既往のない例では血圧による死亡率の差は大きくないことが分かりました。ご指摘の通り、脳血管障害や動脈硬化のある患者さんでは過度の降圧に注意が必要です。
 また、同Studyでは登録時の血清クレアチニン値と6年間の累積死亡率の関連も検討しました。死亡率は0.6mg/dL以下群では10%でしたが、クレアチニン値が高くなるほど上昇し、0.9mg/dL 以上群では4割に達しました7)。腎機能を低下させないことが予後の改善につながることを示す結果だと思います。

図1 8年間の平均収縮期血圧別に見た微量アルブミン尿悪化の頻度解析(Nagano Study)

8年間の平均収縮期血圧別に見た微量アルブミン尿悪化の頻度解析(Nagano Study)

(Yamada T, et al. Diabetes Care 2005; 28: 2733-2738 より作図)

松本市の重症化予防プログラムはCKDも対象に

上條先生 松本市で実施しているもう1つの取り組み、松本市糖尿病性腎症・CKD重症化予防プログラム(以下、松本市プログラム)を紹介します。最大の特徴は、非糖尿病性の慢性腎臓病(CKD)を対象に含むことです。透析導入の原因疾患第1位である糖尿病性腎症が減少傾向にある一方で、第2位の腎硬化症が増加しています4)。そこで私たちは、糖尿病性腎症だけでなく非糖尿病性CKDの重症化予防にも注力すべきと考えました。
 病診連携は①健診受診者を増やし、ハイリスクの方、およびかかりつけ医が診ているハイリスク患者さんを腎臓専門医に紹介、②腎臓専門医が精査し、よりハイリスクな患者さんに専門治療を集約、③状態が安定している患者さんはかかりつけ医の先生に戻す−の流れで行っています(図2a)。いわば、2人主治医制です。
 松本市プログラムのもう1つの特徴は紹介基準からHbA1cを外し、推算糸球体濾過量(eGFR)と蛋白尿に限定したことです(図2b)。駒津先生から糖尿病性腎症の重症化には血糖よりむしろ血圧や尿蛋白の関与が強いとのお話がありましたが、私も同様に考えています。透析導入を抑制するターゲットは糖尿病性腎症だけでなくCKD全体、その指標は腎機能と尿蛋白と考えられます。健康診断でeGFRと尿蛋白が1つでも基準に該当すればかかりつけ医につなぎ、病診連携に組み込みます。

図2 松本市糖尿病性腎症・CKD重症化予防プログラム

松本市糖尿病性腎症・CKD重症化予防プログラム

(松本市地域包括医療協議会:「松本市糖尿病性腎症・CKD 重症化予防プログラム」概要)

プログラムの実践で病診連携を活性化し
エビデンスプラクティスギャップを埋める

上條先生 松本市プログラム開始後、現在までの状況をまとめたデータを紹介します8、9)。腎臓専門施設へ紹介される患者さんにおけるCKDの割合は予想以上に高く、コロナ流行前(2019年4〜12月)が63%、コロナ流行後(2020年1月〜22年5月)が76%と、どちらも糖尿病性腎症(コロナ流行前37%、流行後24%)を上回りました。非糖尿病性CKD患者さんをかかりつけ医から専門医につなぐ需要はあると感じています。
 しかし紹介実績のある医師は34%にとどまり、病診連携に前向きになれない理由は次の4点に集約されました。①受け入れ能力など専門医の負担増大への懸念、②予約が取れないなど紹介プロスの問題、③紹介する意義が不明、患者さんの負担が心配などかかりつけ医のモチベーション不足、④患者さんの理解不足−です。
 何を基準に紹介されたかを見ると、糖尿病性腎症ではコロナ流行前は試験紙法による尿蛋白や微量アルブミン尿が多かった(59%)のですが、コロナ流行後はeGFR 低下が70%と大幅に増え、尿検査を行わず腎機能が低下してからの紹介となっている可能性があります。
 病診連携には、かかりつけ医の診療内容がガイドラインに則しているかを専門医が確認するプロセスも含まれます。ガイドラインに則した方向に治療内容を調節した例は56%でした。これは、臨床現場では必ずしもエビデンスに基づいた治療が行われていない「エビデンスプラクティスギャップ」の存在を示唆する結果です。尿検査が行われていないことも含め、このギャップをどのように埋めていくかが重要な課題です。
駒津先生 少し古いデータですが、糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)が行った調査では、糖尿病専門施設においても4割以上が尿中アルブミン測定を行っていませんでした10)。非専門医ではいかがでしょうか。
上條先生 尿検査を必要と感じるタイミングをかかりつけ医に尋ねたアンケートの結果では、腎機能悪化時や体調不良時という答えが半数以上を占め、初診時に尿検査が必要と考える医師は19%にすぎませんでした(図3)。CKDも糖尿病も自覚症状に乏しいので、第2期の段階で尿検査を行わなければ、重症化予防の意味がありません。これはまさにエビデンスプラクティスギャップです。
 尿中アルブミンの評価は重症化予防だけでなく、原疾患評価、末期腎不全や心血管疾患のリスク判定、治療の効果判定にも重要です。したがって、無症状であっても定期的に尿検査や蛋白尿の評価を行うべきです。

図3 かかりつけ医が尿検査を必要と感じるタイミング(松本市医師会調べ)

かかりつけ医が尿検査を必要と感じるタイミング(松本市医師会調べ)

(松本市地域包括医療協議会:「松本市糖尿病性腎症・CKD 重症化予防プログラム」概要)

市民も医師も尿検査の重要性の認識が不足

上條先生 松本市での手応えを基に、長野県全体への重症化予防プログラムの拡大を予定しているのですが、人も予算もコロナ対策に流れてしまい、足踏み状態です。
駒津先生 健診受診数は保健師による受診勧奨に負う部分が大きいのですが、コロナ対応に忙殺されて「それどころではない」状態となっています。
宮本先生 当院でも「保健師さんに何度も促された」から来院される方がいます。こうした患者さんに対しては今の状態だけでなく、定期的な観察ができるよういつも以上に指導に力が入ります。このように意識することが病診連携の活発化につながると考えています。保健師の力は大きく、コロナ状況の収束を願うばかりです。
上條先生 健診受診率を高めるには、一般市民の糖尿病や腎疾患、透析予防についての認知度を上げることが重要です。特に一般の方は蛋白尿に対する危機感がとても薄いと感じています。
駒津先生 それについては医師側の意識も変える必要があります。尿検査がなぜ重要なのか、症状がない段階で定期的に検査するのはなぜなのかを患者さんに問われたら、きちんと答えられるようになっていただきたい。
 臨床的な実感として、糖尿病性腎症は以前と比べ明らかに予後が良くなっている印象があります。それは治療薬の進歩によるところが大きいと思います。
上條先生 重症化予防プログラムも同じで、病診連携とガイドラインに則した標準治療の実践による効果は現れると考えられます。ただ、それをエビデンスとするにはまずデータが必要です。尿蛋白の定性を確認し、リスク症例はアルブミン定量まで行って、しっかりとしたデータを取っておくことが大切ですね。
駒津先生 きちんとデータを取って質の高いエビデンスを構築し、できるだけ早く医師や患者さんに還元しなければなりません。特に専門医は目の前の患者さんが良くなることだけで自己満足してはいけないと思います。
上條先生 松本市プログラムは病診連携の活発化と連携を通じ、かかりつけ医にガイドラインに則した標準治療を実践していただくことに主眼を置いています。本事業によるハイリスクの患者さんを専門治療につなげるマスの介入と、医薬連携による厚い個別支援の両輪で、松本市さらには長野県における腎症重症化予防を進めていきたいと思います。

文献

1)
厚生労働省. 腎疾患対策検討会報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000332759.pdf
2)
厚生労働省. 糖尿病性腎症重症化予防の更なる展開に向けて事例集
(都道府県・市町村・広域連合) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170309.html
3)
厚生労働省. 重症化予防(国保・後期広域)ワーキンググループとりまとめ「糖尿病性腎症重症化予防の更なる展開に向けて」 2017年7月発表 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000170646.pdf
4)
日本透析医学会. わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在) https://docs.jsdt.or.jp/overview/index.html
5)
Yamada T, et al. Diabetes Care 2005; 28: 2733-2738.
6)
日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_noprint.pdf
7)
片倉正文, 他. 内分泌・糖尿病・代謝内科 2012; 35: 70-74
8)
松本市医師会報 2020; 624: 18-24.
9)
NPO法人長野県慢性腎臓病の病態と治療研究会 CKD対策研究報告会資料(2022年7月23日)
10)
Yokoyama H, et al. Diabetes Care 2007; 30: 989-992.

1〜4、6):2022年11月アクセス

記事作成日:2023年2月

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