2型糖尿病を合併する慢性腎臓病によるリスク
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の影響は広範囲に及びます
2型糖尿病による高血糖状態が長期間続くと、腎臓の障害が引き起こされることから、2型糖尿病患者の40~50%が慢性腎臓病に罹患していると推測されています4,5)。
心血管イベントに対するリスクは慢性腎臓病発症の初期から上昇し始め、時間経過とともに高くなります7-9)。
2型糖尿病患者では、慢性腎臓病が進展することにより、腎臓やその他の臓器に障害を起こす可能性があります5,10,11)。
慢性腎臓病は進行性の疾患であり、腎不全への進展や、最終的には死にいたることがあります。特に慢性腎臓病と2型糖尿病を合併すると、2型糖尿病のみに罹患した場合と比較して、心血管疾患の併存割合が高いことが報告されています12)。
2型糖尿病と慢性腎臓病を合併した患者では、心血管疾患の併存割合が高くなっていました12)。
併存疾患 | 2型糖尿病のみ(n=171,745) | 2型糖尿病と慢性腎臟病を合併(n=171,930) |
脳卒中 | 6.1% | 9.2% |
冠動脈疾患 | 7.3% | 10.6% |
末梢動脈疾患 | 12.3% | 20.7% |
(p<0.001)
カイ二乗検定またはKruskal-Wallis検定
Bramlage P, et al. Cardiovasc Diabetol. 2019;18(1):33. より抜粋
目的:慢性腎臓病合併・非合併の2型糖尿病患者の実態を調査する(海外データ)
対象:DPVおよびDIVEに登録された2型糖尿病患者343,675例
方法:DPV (Diabetes-Patienten-Verlaufsdokumentation)およびDIVE (Diabetes-Versorgungs-Evaluation)に登録された394施設(ドイツ382施設、オーストリア11施設、ルクセンブルク1施設)のデータを用いて、糖尿病治療薬、降圧薬の服用状況や併存疾患に関するデータを収集し解析した。カテゴリ変数は%として表示し、慢性腎臓病合併・非合併の2型糖尿病患者の実態を比較した。未調整の比較にはカイ二乗検定またはKruskal-Wallis検定を実施した。
2型糖尿病と腎障害を合併する患者は、2型糖尿病と腎障害のどちらも 罹患していない患者と比較して、 10年間の死亡率が47.0%上昇しました10)。
*GFR≦60mL/分/1.73m2
破線は2型糖尿病と腎障害のどちらも罹患していない患者の死亡率を示している。
Afkarian M, et al. J Am Soc Nephrol. 2013;24(2):302–308.
死亡率の群間差は線形回帰を⽤いて推定し、年齢、性別、⼈種で補正した。
尿中アルブミン/クレアチニン⽐およびeGFRは、慢性腎臓病の重症度分類に⽤いられる13)。
目的:2型糖尿病および腎障害の状態により10年間の累積死亡率を検討する(海外データ)
対象:第3回米国国民健康栄養調査 (National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES Ⅲ)に登録された15,046例
方法:NHANES ⅢのベースラインデータとNational Death Index (死亡情報)から、2型糖尿病および腎障害の状態による10年間の死亡率を検討した。累積死亡率は、イベント指標の平均から推定し、10年間の死亡率は対象集団の年齢、性別、人種、民族により標準化した。死亡リスクの絶対差は線形回帰を用いて推定した。
末期腎不全はさまざまな合併症をもたらします
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病は、腎臓や心臓の機能低下を経て、最終的に末期腎不全へと進展します。そのため、患者は末期腎不全に伴う合併症のリスクに直面することになります7)。
末期腎不全は透析療法(血液透析、腹膜透析)あるいは腎移植といった腎代替療法が必要とされています14)。
- 透析療法を導入している患者の年間粗死亡率は10%でした(2018年調査)15)。
- 移植ドナーの数が十分ではないため、腎臓移植の実施には限りがあります。
末期腎不全から透析療法にいたる患者の5年生存率は約40%という報告があります。末期腎不全からの透析患者は透析療法を受けながら社会生活を送っていますが、生命予後やQOLは健常者に比べて大きく劣っています。そのため、慢性腎臓病を進展させないことが最も重要です16)。
透析導入にいたる原疾患では糖尿病性腎症が2011年以降、第1位を占めています。2型糖尿病は末期腎不全にいたる最大のリスク因子と考え、早期から治療介入する必要があります2,7,15,17)。
新田孝作ほか. 透析会誌. 2019;52(12):679-754.より作図
目的:日本透析医学会統計調査(JSDT Renal Data Registry,JRDR)による2018年末時点における年次調査として実施
対象:4,458施設に日本透析医学会として調査票を送付
方法:対象施設に日本透析医学会として施設調査票と患者調査票を送付し、回答を得た施設調査票4,402施設(98.7%)分と患者調査票4,222施設(94.7%)分の集計を実施した。
1990年代以降、血糖管理・血圧管理は2型糖尿病の合併症を減少させるために有効であり、特に心血管イベントの減少に対しては一定の効果が認められました。しかし、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者は、いまだに腎臓病の進行リスクが高い状況です7,18)。特に末期腎不全の発症率はほとんど改善されておらず、現在の標準治療だけでは十分ではないと考えられます18)。
References:
- 1. 厚生労働省健康局「平成28年国民健康・栄養調査」 2. Pálsson R, et al. Adv Chronic Kidney Dis. 2014;21(3):273-280. 3.Eriksen BO, et al. Kidney Int. 2006;69(2):375-382. 4.Wada T, et al. Clin Exp Nephrol. 2014:18(4):613-620. 5.Alicic RZ, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2017;12(12):2032-2045. 6.Wen CP, et al. Kidney Int. 2017;92(2):388-396. 7.Thomas MC, et al. Nat Rev Dis Primers. 2015;1:15018. 8.Scirica BM, et al. JAMA Cardiol. 2018;3(2):155-163. 9.Amod A, et al. Diabetes Ther. 2020;11(1):53-70. 10.Afkarian M, et al. J Am Soc Nephrol. 2013;24(2):302-308. 11.Zhu Z, et al. Am J Ophthalmol. 2020;213:24-33. 12.Bramlage P, et al. Cardiovasc Diabetol. 2019;18(1):33. 13.日本腎臓学会編, エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社 14.日本腎臓学会編, CKD診療ガイド2012. 東京医学社 15.新田孝作ほか. 透析会誌. 2019;52(12):679-754. 16.石川 勲,日腎会誌. 2004;46(1):12-19. 17.秋津 忠男. 日腎会誌. 2006;48(8):715-718. 18.Gregg EW, et al. N Engl J Med. 2014;370(16):1514-1523. Return to content