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地域で行うCKD対策の取り組み
~行政との活動を含めて~

村上 円人 先生

佐野厚生総合病院
病院長

村上 円人 先生

人をつなぐ医療をつむぐ

 糖尿病の重症化予防は、患者さんのQOL向上と同時に医療費の適正化も実現できることから、医療政策のなかでも重要な項目として位置づけられています。
 糖尿病は合併症を引き起こしやすく、4大合併症(網膜症・腎症・神経障害・大血管障害)が進行すると、人工透析や失明、足の壊疽、脳卒中、心筋梗塞につながるリスクが高まります。
 そのため、各地域ではさまざまな重症化予防プログラムが展開されていますが、糖尿病性腎症の早期発見・治療介入が大きな課題となっており、目標である「透析患者を減らす」ためには、さらなる一手が必要です。
 そこで今回は、日野市立病院(東京都)勤務時代に行政とタイアップした微量アルブミン尿検診事業を立ち上げた、佐野厚生総合病院病院長の村上円人先生に透析患者を減らす戦略と急性期病院の戦略についてお話をうかがいました。

3割の陽性が判明した
微量アルブミン尿検診

― 日野市で糖尿病性腎症重症化予防に取り組む前に、村上先生はどのような問題意識を持たれていたのでしょうか。
村上先生 私のライフワークは「透析患者を減らすこと」です。透析の患者さんを減らすためには専門医に適切なタイミングで紹介し、進行を管理・予防することが重要です。透析導入患者のうち主要原疾患の4割以上が糖尿病性腎症であることから、早期発見・治療を実現するには「微量アルブミン尿検査」が有効であるということを2007年前後から各方面に訴え続けています。
 当時から、医師会の先生方にもご協力いただきながらCKDの地域連携クリニカルパスを展開しており、厚生労働省からのヒアリングも幾度となく受けました。その時の記録を振り返ると、「微量アルブミン尿検診」を日野市で実施したいと話していることがわかりました。ちょうど、国内の2型糖尿病患者8,897人を対象とした腎症有病率調査(JDDM10)の結果で微量アルブミン尿を呈する早期腎症(第2期)が32%であることが判明したたタイミングでした。健診の尿蛋白試験では「ー」あるいは「±」に該当するレベルですが、患者さん側に自覚症状がないこともあり治療介入が行われずに放置されてしまうケースがほとんどです。一方、治療介入を行ったとしても30%は病状が進行してしまうため、専門家の間でも微量アルブミン尿検診をしても透析は減らない。費用対効果が悪いことが指摘されていました。
 現状を打開してくれる新薬の登場を悶々としながら待ち望んでいたところ、2014年に新しい作用機序の糖尿病治療薬が登場しました。50人以上の患者さんに使用して「勝負の時が来た」と思い、地域を対象にした講演会や市民公開講座のなかで、糖尿病性腎症から体を守るというテーマの市民公開講座を行ったところ、200人を超える参加者のなかに地方議員や市の職員がいたのです。
 当時は日野市はがん検診に注力しておりましたが、この講座に参加してくださった市の職員から「ビッグデータを活用して何かできませんか」と相談を受けました。地方議員の先生からも「議会に提出したいから資料を作成してほしい」と依頼され作成しました。日野市は人口当たりの糖尿病、肥満が多く、微量アルブミン尿検査を実施するに値するという背景もあり、その結果、微量アルブミン尿検診の導入が全会一致で認められたのです。
 当時は、人工透析を1年間先送りできれば年間500万円以上の医療費が削減できるという議論が中心でしたが、中長期的にみると、医療費にはさほど影響はないと思われます。やはり、透析を減らすには早期発見、早期治療介入を基本とすべきであり、医療費へのインパクトも長期的に期待できます。
― 日野方式とは、どのようなものなのでしょうか。
村上先生 まず、対象者の絞り込みが大きな壁になりました。当初、日野市における特定健診の対象者は約1万6,000人いました。すべての人に実施すると予算がまったく足りません。対象者の絞り込みをするうえで悩んだのは、HbA1cをどこで線引きするかということです。他の専門医などにも相談したうえで「6.0以上」に決めました。日野方式は2016年度からスタートしましたが、この基準については地域での糖尿病講演会等の議論で決めた経過があり、医師会を含めてまったく反対意見はありませんでした。
 この基準設定により、特定健診対象者を1/10の約1,500人にまで絞り込むことができ、予算の範囲内で実施できると喜んでいたのですが、次の壁は検査の回収方法でした。かかりつけ医の先生方に検査を実施していただき、その都度検査業者が回収するというプロセスでは検査会社に引き受けてもらえず、日野市からも検査を実施するのは不可能だと言われてしまいました。それなら検査機器そのものを開発しましょう!と提案し、検査機器メーカーに安価な新製品開発プレゼンテーションを行いました。幸いにも提案にご賛同いただき、新たに開発された検査機器を日野市保険年金課に契約していただいて49医療機関に設置しました。
 この前後に、2型糖尿病を対象とした心血管アウトカム大規模試験1) のサブ解析において腎複合関連アウトカムが改善した事実も、取り組みの後押しになりました。下記の図の〈対象〉に該当する方々には日野市保険年金課から受診券を送付しました。日野方式のポイントをまとめると4つあります。1つめは、ビッグデータを用いた対象者の絞り込みを行ったこと。2つめは、対象者に受診券を郵送したこと。3つめは、安価な微量アルブミン尿測定機をかかりつけ医に配布したこと。4つめは、eGFRの同時測定を実施したことです。
 対象となった患者さんの手間は通常の特定健診とまったく変わりません。受診券をもって行けば“特別な検査”を追加で行うことができますというプレミアム感のアピールにもなりました。

図1 2016年度の日野市国保特定健診への微量アルブミン尿検査(日野方式)導入

図1 2016年度の日野市国保特定健診への微量アルブミン尿検査(日野方式)導入
― 日野方式では、どれくらいの人が微量アルブミン尿陽性だったのでしょうか。
村上先生 2016年度からパイロットスタディが始まり、2017年度から正式な体制での検診が始まりました。私が慶應大学の医局人事で佐野厚生総合病院の院長に就任した時期は2017年6月でした。ちなみに、現在もアドバイザーとして無料で日野市を支援しています。2017年度の微量アルブミン尿検診の結果、1,156人のうち31.5%が「陽性」でした。この結果は、JDDM10の結果2) とほぼ同じだったので皆で驚いたことを思い出します。自分のなかで2~4割の間かと思っていましたがJDDM10と同じになるとは予想していませんでしたし、医師会の先生も驚いていました。予算内で大きな結果を得られたことで、その後の展開にも弾みがつきました。東京都内では港区においても取り組みが始まっており、他の地域にも拡大していくことが期待されます。
 これまで放置されてきた尿蛋白「ー」あるいは「±」の患者さんに対して積極的に介入しようという意識づけが、糖尿病専門医や開業医に定着することを期待しています。レセプトでの糖尿病患者全体の検査状況をみると、HbA1cは95%以上の患者さんが測定を受けているのですが、微量アルブミン尿は20%にも満たないのが実態です。つまり、腎症が悪化してから介入していることがほとんどなのです。対象者の3人に1人が陽性となるならば実施する意味があります。このムーブメントが全国に広がることを願っています。

患者さんとのコミュニケーション術

― この結果は検査を受けた人にとってもインパクトがあったと思います。対象者のその後の受診行動・治療介入には結びついたのでしょうか。
村上先生 このような検診で陽性となる人の多くが、治療を中断したり、そもそも未受診だった方なのです。このような人たちが放置されると、近い将来人工透析になってしまい、財政を圧迫することになります。だから行政を巻き込み介入しなければなりません。日野方式はビッグデータを活用することで対象者の抽出に成功しました。前述のとおり、いまは薬物治療により介入すれば症状の悪化を抑制することができます。今後はかかりつけ医の先生にもご協力いただきながら、このプロジェクトを広げられればと思います。
 大切なことは「動機づけ」です。糖尿病が悪化して透析になりたい患者さんはいません。患者さんに説明する時には「ここで放置したら、10年後には透析になりますけど、定年を迎えた時に透析で大丈夫ですか?」と伝えると、「えっ!?先生そうなんですか?」と、患者さんが考え始めてくれます。「今は治療薬があるけれど、10年後に透析になってもよければ、外来も混んでいるからもう来なくても大丈夫ですよ」と1度突き放すと効果があり「先生、そんなこと言わないでよ」と治療に積極的になってくれます。
 日本人は賢いので、内的動機づけをすれば“自分の問題”として捉えてくれます。患者さんの人生の問題として捉えてもらえるように話すのです。「僕はあなたに医療的なアドバイスをすることが仕事です。このまま放置すれば10年後に透析になる。治療を受けるかどうかはあなたの判断を尊重します」と伝えれば、受けない患者さんはほとんどいないと思います。
― 患者さんのなかには「自分はそんなに長生きはしたくない」と言う人もいるかと思います。そのような患者さんにはどのように対応されていますか。
村上先生 そのような患者さんには、「あなたは医学的にみて臓器の機能も良いし、100歳くらいまで普通に生きられると思うのですが、生きたくない?本当にいいの?こんなに神様から良い体をもらったのにいいの?」と話すと、「そんなに僕、健康ですか?」と聞いてきます。このように、1度褒めるのです。透析しながら80、90歳を迎えるのか、透析せずに迎えるか。「貯金が尽きた頃に透析だと困りませんか?結構きつくないですか?」と。私も透析を減らすことに本気ですから、患者さんにその姿勢が伝わるのだと思います。若い頃は患者さんに話を聞いてもらえずに苦労しましたが、腎症が進行するとお孫さんを遊びに連れていけなくなるなど、患者さんが自分自身の問題として考えるように話すことで受け入れてもらえるようになりました。
― 村上先生は日野方式により治療中断や未受診者対策の成果を出されましたが、全国各地の糖尿病性腎症重症化予防の取り組みに対しては、どのようにお感じでしょうか。
村上先生 すでに多くの地域で重症化予防が実施されていますが、対象者への介入を外部業者に委託している自治体が多いようです。そのため、コストがかかり費用対効果の面で相当苦労されているという話を聞いています。また、先ほども触れましたが腎症がある程度進行してしまってから介入しているケースが多く、日野方式のように早期の腎症に介入するのは稀です。これは、対象者が多すぎて費用対効果が合わないからとする意見がありますが、日野方式のようにHbA1cなどで対象者を絞り込めば問題ありません。

図2 5疾病6事業を担う基幹病院

図2  5疾病6事業を担う基幹病院

院長就任後に職員数を
V字回復させた方法

― 佐野厚生総合病院に赴任されてからも改革を進めているとうかがいました。心疾患や脳卒中、糖尿病の患者さんが増えるなか、公的な急性期病院としてどのようなポジショニング戦略を描かれていますか。
村上先生 佐野に来た時に最初に調べたのは、二次医療圏(両毛)における患者数の将来推計です。脳梗塞、心不全、呼吸器疾患、糖尿病は増える一方、がんは減るということがわかりました。さらに保健所のデータによると、佐野市の平均寿命は県内で最も短く、脳卒中や心疾患による死亡が多いことがわかりました。糖尿病が多いということは透析も多い。糖尿病性腎症、高血圧、高度肥満、メタボリック症候群、うっ血性心不全、尿路系異常、尿路感染症などはまさに微量アルブミン尿陽性を来す疾患ですから、佐野市においても微量アルブミン尿検査を行うべきです。
 佐野市の特定健診受診率を調べたところ、全国平均51%に対して21%しかありませんでした。理由は「有料」だからです。都内では無料が当たり前であり、隣の栃木市も無料です。そこで、ここでも市議会議員に健康行政についてお話をさせていただき、その結果無料にしていただけました。微量アルブミン尿検診を提案する前に、まずは特定健診の受診率を上げることをファーストステップとしたのです。この一連の活動については栃木県知事から表彰を受けました。
 病院の変革については、私が当院に来た時、勤務医、看護師ともに減少に歯止めがかからない状況でした。病院の機能に関しても、当時契約していた大手経営コンサルタント会社から慢性期病棟への移行を突き付けられていました。私はその提案を突っぱねてコンサルティング契約を解除し、戦略を練り直しました。
 佐野市の二次救急輪番病院は当院だけですので、手を下ろすわけにはいきません。急性期・高度急性期機能を拡充し、強化するという方向性を打ち出しました。5疾病6事業をやり切る理念や使命感を持つ意欲の高い基幹病院を目指すことを院内に周知し、各部門のマンパワーを増員しました。紹介率も私が来る以前の2015年は65%でしたが、いまではコロナ禍前は90%を超え、最近は80%台です。軽症の患者さんは地域の先生にお任せし、当院は中等症・重症しか診ない方針を徹底しています。地域の医師会との連携体制も佐野市医師会から評価をいただき、栃木県代表として地域医療連携病院の厚労省のヒアリングも受けました。医師会だけでなく、警察との地域での連携協議会にも院長として初めて参加し、良い関係性を築けています。救急診療では警察に相談するケースが多いですから。
 さまざまな取り組みを実施したことにより、2018年に72人まで減少した常勤勤務医が2021年4月には92人までV字回復しました。看護師入職数も2019年4月の16人から2021年4月には46人と、ほぼ3倍に増えました。看護師の採用に関しても人材紹介会社との契約を解除して、そこにかけていたお金を看護師の研修や奨学金に回し、看護師向けのホームページ制作にも力を入れました。

図3 当院の疾患分類別症例数の変化 DPCデータ 

図3 当院の疾患分類別症例数の変化(DPCデータ)
― 一度減ったマンパワーをV字回復させるには、制度を変更しただけでは難しいと思います。なぜ、人材が集まる病院に生まれ変われたのでしょうか。
村上先生 医療はチームで行うものです。優秀な医師を招き自己実現に協力し現場の意欲を高めることが大切です。たとえば高額医療機器を導入してイノベーションを起こしてもらいました。内視鏡手術支援ロボット「da Vinci」による手術を2020年6月から泌尿器科で導入し2021年9月には100症例を達成しました。2021年11月からは肺がんの「da Vinci」手術も開始予定です。
  質の高い良い医療を行っていると、「一緒に働きたい」という医療スタッフが集まります。医療人の働く意欲を高めることが病院経営の中心だということが私の理念のひとつです。私1人だった腎臓内科の医師も5人に増えました。透析センターの収益も5倍以上になりましたし、DPCデータを2014年度と2019年度で比較すると、腎・内分泌疾患、泌尿器、皮膚、新生児の入院患者が大きく増えていることがわかります。
― 働く医療人にとっても、連携する医療機関にとっても魅力的な病院づくりが必要だと言うことですね。
村上先生 他の医療機関との連携は信頼関係によって成り立っています。当院が質の高い良い医療を行っていれば患者さんを紹介していだだけます。私の領域に関してはCKDの連携パスに関して各地域の医師会の先生を対象に講演を重ねています。私自身、佐野市だけでなく、栃木市、小山市、館林市の連携医療機関を事務員とともに訪問させていただき、透析のハード面などマニアックな話も含めてじっくりと話をさせていただいています。このように信頼関係を構築してCKDの連携に関しては「2人主治医制」を展開しています。
― 最後に今後の目標について教えてください。
村上先生 病院長として願うのは、すべての職員が5疾病6事業を担う基幹病院であることを自覚して、それぞれがスキルアップに励んでもらうことです。最先端の医療を担う空気感を院内に醸成し、努力する人材を適切に評価することが私の課題です。個人的には、病院の枠組みだけではなく、行政や医師会とも連携して当院がやるべきことを見極めつつ、「透析患者を減らす」取り組みを今後も進めていきたいと思っております。どんなに頑張ってもバケツの水を耳かきですくっているような気分になることもありますが、透析患者の減少傾向が続くまでムーブメントを起こし続けたいと思います。

図4 佐野市における腎内分泌疾患の地域連携の提案

図4  佐野市における腎内分泌疾患の地域連携の提案

[文献]

  1. Christoph Wanner et al. Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes Shock. N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):323-34.
  2. Yokoyama H, Kawai K, Kobayashi M, et al. Microalbuminuria is common in Japanese type 2 diabetic patients: a nationwide survey from the Japan Diabetes Clinical Data Management Study Group (JDDM10). Diabetes Care. 2007;30:989-92.

 

記事作成日:2022年2月

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