課題を見据えて地域で取り組む
南魚沼市のCKD対策
取材日:2020年9月11日
南魚沼市民病院 透析センター長
田部井 薫 先生
かかりつけ医との連携強化と市民病院でのチーム医療
「南魚沼地区CKD医療連携会」でかかりつけ医との連携を強化
―開業医と専門医の連携についてお聞かせください。
田部井先生 健診後の専門医受診の流れは、かかりつけ医の先生方のご理解とご協力でできた取り組みです。私たちは、医師会と専門医の連携をより強化して細やかな情報提供を行っていくために、協議会発足時に「南魚沼地区CKD医療連携会」を立ち上げ、年に1回報告会を行っています。
かかりつけ医との円滑な連携は、患者さんの腎機能の変化に気づいたときに、直ちに専門医へ紹介していただくための土台となります。CKD医療連携会の報告会では、安心して大切な患者さんを紹介していただけるように、専門医がどのような検査や評価を行うか、また、患者さんをお戻しする時には、今後の治療方法を必ず先生方にお教えすることも伝えています。
報告会では、専門医受診で判明した特殊な疾患についてもお話ししています。たとえば、健診後に当院を受診した人のうち、毎年10例以上、腎・尿路結石や膜性腎症などの腎関連の疾患、さらに膀胱がん、重症筋無力症、原発性副甲状腺機能亢進症などの特殊な疾患が見つかっています。こういった一般的な診療では発見が難しい症例が見つかるのは、疾患の特性上、腎臓専門医は全身を診ているためです。開業医の先生方に専門医が診る利点に納得していただければ、より信頼関係が深まると考えています。
かかりつけ医との円滑な連携は、患者さんの腎機能の変化に気づいたときに、直ちに専門医へ紹介していただくための土台となります。CKD医療連携会の報告会では、安心して大切な患者さんを紹介していただけるように、専門医がどのような検査や評価を行うか、また、患者さんをお戻しする時には、今後の治療方法を必ず先生方にお教えすることも伝えています。
報告会では、専門医受診で判明した特殊な疾患についてもお話ししています。たとえば、健診後に当院を受診した人のうち、毎年10例以上、腎・尿路結石や膜性腎症などの腎関連の疾患、さらに膀胱がん、重症筋無力症、原発性副甲状腺機能亢進症などの特殊な疾患が見つかっています。こういった一般的な診療では発見が難しい症例が見つかるのは、疾患の特性上、腎臓専門医は全身を診ているためです。開業医の先生方に専門医が診る利点に納得していただければ、より信頼関係が深まると考えています。
―先生方との関係づくりに手ごたえはありますか。
田部井先生 はい。最近は、腎機能が悪くなってきた患者さんを早めに紹介していただくことが増えてきました。また、開業医の先生に「CKDの治療方法に田部井先生のお墨付きをもらって自信がつきました」と言って頂いた時は、信頼関係を感じて嬉しかったですね。前職のさいたま市では100人以上の開業医の先生がおられ、すべての先生との密な関係づくりはなかなか難しかった。ここは限られたコミュニティですから、文字通りお互いの顔が見える関係を築くことができ、CKD対策を推進する上での強みになっていると思います。
市民病院で取り組むチーム医療と腎機能の推移の“見える化”
―南魚沼市民病院でCKDに携わる多職種の役割を教えてください。
田部井先生 2020年度診療報酬改定では「腎代替療法指導管理料」が新設されましたが、当院では、腎代替療法を考慮すべき時期になると、透析センターの看護師が面談を行っています。初回は社会背景などの問題を聞き出すとともに、腹膜透析、血液透析、腎移植のそれぞれについて、その後の生活も含めて説明します。2回目の面談になると、腎代替療法のどれを行うかを話し合います。私自身がじっくりと説明をする時間をとるのが難しいので、看護師の面談は重症化予防においても重要な役割を果たしています。
また、糖尿病の患者さんの透析導入を予防するために、糖尿病療養指導士である外来看護師と管理栄養士が、それぞれ30分ずつ指導を行っています。看護師は2人体制で、60人以上の患者さんがプログラムに入っており、「糖尿病透析予防指導管理料」の算定にもつながっています。
また、糖尿病の患者さんの透析導入を予防するために、糖尿病療養指導士である外来看護師と管理栄養士が、それぞれ30分ずつ指導を行っています。看護師は2人体制で、60人以上の患者さんがプログラムに入っており、「糖尿病透析予防指導管理料」の算定にもつながっています。
―管理栄養士は当初の1人から増員されたそうですね。
田部井先生 はい。管理栄養士による栄養食事指導は、CKDの重症化予防には不可欠です。私は前職時代から、腎機能悪化速度の抑制には徹底した食事療法が有効だと痛感していました。今は管理栄養士が3人体制で、CKDについては週3日、1日8人~10人の指導をしながら緊急指導依頼にも対応するなどフル稼働です。それぞれのスキルは高く、最初にオーダーを出してからは必要に応じて臨時指導を依頼する程度で、管理栄養士自身が「もう大丈夫」と判断するまで、継続して指導を行っています。
栄養食事指導については、市で開催する「CKD保健医療関係者研修会」で、大学の先生の講演も行ってきました。管理栄養士はもちろん、医師や薬剤師、介護職や健診機関など、幅広い関係者が参加して意欲的に学んでいます。
栄養食事指導については、市で開催する「CKD保健医療関係者研修会」で、大学の先生の講演も行ってきました。管理栄養士はもちろん、医師や薬剤師、介護職や健診機関など、幅広い関係者が参加して意欲的に学んでいます。
田部井先生は表計算ソフトを使って、日付と腎機能の推移を入力するとグラフ化され、近似式が表示されるようにしている。近似式のxの係数は、1日当たりの悪化速度を示す。
同じ表の中で、前日の推定食塩摂取量と推定蛋白摂取量も計算できるようになっている。計算には、年齢、体重、身長、血清クレアチニン、尿中蛋白、尿中クレアチニン、尿中ナトリウム、尿中尿素窒素のデータを用いる。
「毎回患者さんと経過を共有してどこを改善すべきか考え、成果が出れば一緒に喜ぶ」と田部井先生。
―栄養食事指導の効果を上げる秘訣を教えてください。
田部井先生 私は、専門医受診の基準でもお話しした腎機能悪化速度を、当科のすべての患者さんで計算しています。それを、患者さんに病識を持ってもらうために図3のようにグラフ化し、「このままでは2年後に透析導入になります」と患者さんにお見せします。続いて、食事療法が奏効して悪化を抑制している成功例のグラフを見せ、「食事療法をがんばって今の腎機能を維持すれば、この患者さんのように、2年後が20年、30年後になります」と説明します。こうして、現状とともに今後の目標を示し、さらに毎回の診察で腎機能の推移を“見える化”すれば、患者さんの励みとなって、ほとんどの方が前向きに取り組まれます。
また、管理栄養士は、随時尿から前日の推定食塩摂取量と推定蛋白摂取量を割り出しています。患者さんのモチベーションを維持するには、毎回この値を確認し、改善していればその努力をきちんと評価することも大切です。
また、管理栄養士は、随時尿から前日の推定食塩摂取量と推定蛋白摂取量を割り出しています。患者さんのモチベーションを維持するには、毎回この値を確認し、改善していればその努力をきちんと評価することも大切です。
記事作成日:2021年1月