7つの習慣とは
監修 東京慈恵会医科大学 教授・慈恵医大晴海トリトンクリニック 所長 横山啓太郎 先生
■本項のまとめ
- 生活習慣病を改善するためには、病気の原因となっているよくない生活習慣の改善が重要である。
- 生活習慣を改善するには、生活習慣のもとになっている価値観の変容が必要である。
- 患者さんに行動変容を促すために、医療者が身につけるべき習慣を含む「7つの習慣」(応用版)を提唱する。
はじめに
『7つの習慣』は、優れた人格の養成が成功には重要であるとする人格主義に基づき、スティーブン・R・コヴィーが過去の成功者たちの行動・思考を分析し長期にわたって望む結果を獲得し続けるためのエッセンスをまとめて、書籍化した成功への法則です。
コヴィーは『7つの習慣』のなかで、「習慣」を「知識(何をするのか、なぜするのか)」「スキル(どうやってするのか)」「意欲(それをしたいという気持ち)」の3つが交わる部分と定義し(図1)、よい習慣を身につけるためにはこれら3つすべてが必要である、と提唱しています1)。
そして、このよい習慣を身につけるためのアプローチとして「7つの習慣」を提示しています。
図1「習慣」の定義

出典: スティーブン・R・コヴィー, 完訳 7つの習慣30周年記念版. 東京, FCEパブリッシング キングベアー出版, 2020年, p.50.
この「7つの習慣」は、生活習慣病の患者さんの生活指導や、患者さんが生活習慣改善のために必要な価値観を習得するのに応用できると考えられます。まず『7つの習慣』の内容に基づいて、生活習慣病をうまく管理できている人に備わる特徴を分析してみます。
生活習慣病をうまく管理できている人は「緊急でなく重要」な事柄を選択できる
生活習慣病を上手に管理できている約100名の患者さんにヒアリングを行ったところ、彼らは「生き甲斐(なすべきこと)を長期ビジョンとしてとらえている」という特徴を備えていることがわかりました。
『7つの習慣』では、日常生活における事柄を「緊急で重要」「緊急で重要でない」「緊急でなく重要」「緊急でなく重要でない」の4つに分けて考えています(図2)2)。
生活習慣病を管理できている患者さんの特徴である「生きがい」は、健康維持のための努力という「緊急でなく重要」な事柄を長期ビジョンとしてとらえ、地道に継続することの大切さを理解している人たちのことである、といえます。
図2 時間管理のマトリックス

※PC:Production Capability(成果を生み出す能力)
出典: スティーブン・R・コヴィー, 完訳 7つの習慣30周年記念版. 東京, FCEパブリッシング キングベアー出版, 2020年, p.200.
日常生活における事柄の多くは、第III領域の「緊急で重要でない」事柄に含まれます。これらは「自分は主導権をもたず、他者からの要求を満たすことに追われる作業」であり、このような事柄ばかりに追われると他の領域の事柄をこなすことが困難になります。
「7つの習慣」は「価値観の変容」に役立つ
地道な努力を長期間継続することは困難です。総じて生活習慣病患者さんは「生活環境を変えることは無理だ」と感じています。
背景には、「自分の体は生まれたときから死に向かっているが、それを自覚することはつらい」といった死への恐怖感、「仕事でストレスを抱えている現代人は、食事やたばこでストレスを軽減するのが当たり前」といった価値観が存在します。
生活習慣を改善するには、価値観の変容が不可欠です。そしてそのとき、「7つの習慣」が有効です。医療者が「7つの習慣」を意識しつつ患者指導を行うことが、患者さんの価値観の変容につながります。
ただし、生活指導の場では、医療者と患者さんが信頼関係に基づいて、生活改善のためのよりよい方法をともに模索する必要があります。そこで、「7つの習慣」を患者さんおよび医療者双方が身につけるべき習慣として応用し、活用することが大変有用です。
コヴィーの定義する「7つの習慣」と医療現場における応用
コヴィーが定義する「7つの習慣」は以下のとおりです。
第1の習慣 | 主体的である |
---|---|
第2の習慣 | 終わりを思い描くことから始める |
第3の習慣 | 最優先事項を優先する |
第4の習慣 | Win-Winを考える |
第5の習慣 | まず理解に徹し、そして理解される |
第6の習慣 | シナジーを創り出す |
第7の習慣 | 刃を砥ぐ |
これらのうち、第1、第2、第3の習慣は、自分自身や自分が望むことを深く知るための習慣といえます。習慣を形成する要素でいえば「知識」にあたる部分です。深く知ることで、自分を変えようという「意欲」も生まれてきます。
第4、第5、第6の習慣は、習慣を形成する要素でいえば「スキル」にあたる部分です。行動変容がうまくできないときに、問題点を見いだし、改善するためのヒントをもたらす習慣といえるでしょう。
さらに第7の習慣を身につけることで、それまでの6つの習慣に磨きをかけることができます。
この基本の「7つの習慣」を生活習慣病管理に当てはめてみましょう。
第1の習慣 | 主体性を発揮する | 患者さんが身につけるべき習慣 |
---|---|---|
第2の習慣 | 終わりを思い描くことから始める | |
第3の習慣 | 重要事項を優先する-病気と健康のとらえ方 | |
第4の習慣 | Win-Winを考えてみる | 医療者が身につけるべき習慣 |
第5の習慣 | 理解してから理解される-医療者の姿勢 | |
第6の習慣 | 相違点を重視して、相乗効果を発揮する | 患者さん・医療者がともに身につけるべき習慣 |
第7の習慣 | 刀を砥ぐ-4つの側面の進化 |
第1、第2、第3の習慣は患者さん自身が身につけるべき習慣、第4と第5は医療者が身につけるべき習慣であり、第7は医療者と患者さんがともに身につけるべき習慣といえます。
本コンテンツでは、この応用版に基づき生活習慣病患者さんの「行動変容のアプローチ」について順次解説していきます。
文献
- 1)
- スティーブン・R・コヴィー, 完訳 7つの習慣30周年記念版. 東京, FCEパブリッシング キングベアー出版, 2020年, p.48-49.
- 2)
- スティーブン・R・コヴィー, 前掲書: p.200.