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第2の習慣:終わりを思い描くことから始める

監修 東京慈恵会医科大学 教授・慈恵医大晴海トリトンクリニック 所長 横山啓太郎 先生

■今回のポイント

  1. 患者さんに行動変容を促すには、目標を明確に示すことが重要である。その際、目標を達成することで、どのようなメリットがあるかを示すことが大切。
  2. 場合によっては、最終目標に至るプロセスをいくつかのステップに分けステップごとの目標を設定し、その目標をクリアしながら最終目標をめざすことが必要。
  3. 患者さんをほめることで、効果が上がる。ただし、どのような点がよかったか具体的に、タイミングを逃さずにほめることが大切。

ゴールを明確にした健康管理

生活習慣病患者の行動変容において、「終わりを思い描くことから始める」とは行動変容のゴールを設定することです。ゴールとはつまり、生活習慣病のリスクになるよくない習慣をやめることです。

例えば、肥満傾向で普段運動しない患者さんは、「運動習慣を身につけること」がゴールになります。ところが、医療者が「定期的に運動しましょう」と伝えても、運動をしない患者さんが少なくありません。

この場合、ゴールが不明確であることが問題です。「1日1万歩をめざしましょう」とか「週に3日は汗をかくぐらいの運動をしましょう」などと、ゴールを明確にすることで、患者さんは努力しやすくなります。

例えば、夏休みの旅行の計画を立てるときに単に「海に行く」と計画する人より、「7月の下旬に沖縄のAホテルに泊まってシュノーケリングをする」と計画する人の方が実現性ははるかに高いでしょう。

「ゴールを明確にすること」には、「目標達成の際にどんなよいことがあるかを示すこと」も含まれています。どんなよいことが待っているかをイメージできれば、ゴールに向かって努力しやすくなります。

イメージ

また他の例として、喫煙者においては、禁煙するというのもゴールになりえます。しかし禁煙指導の難しさの1つは、「喫煙が健康に悪い」と頭では理解していても、「喫煙習慣をやめることで、どんなよいことが待っているか」をイメージしにくいことにあります。健康への影響を説明するより、「たばこを吸っていると、お孫さんに嫌われますよ」と伝えたほうが効果的な場合もあります。

一気にゴールをめざすことが困難なら、ステップごとの目標を設定する

医療者は「生活習慣を一気に改善したい」と思いますが、難しい場合があります。また、「ゴールが遠くにある」と思うと患者さんのモチベーションは低下しがちです。

そのため、最終ゴールに至るプロセスをいくつかのステップに分けることも大切です。ステップごとの目標をクリアしながらめざすことで、最終ゴールに到達しやすくなります。

例えば、肥満の患者さんに「体重を減らしましょう」といっても、「どこまで減量したらよいか」ゴールが明確でないため、やる気がおきないかもしれません。「とりあえず、体重は●●kgをめざしましょう」と当面の目標を設定することで、やる気が生まれます。また、当面の目標を達成した際の達成感は、次なる目標への努力につながります。

「7つの習慣」の「終わりを思い描くことから始める」というのは、目的地をはっきりさせてから一歩を踏み出すことの重要性を示しています。目的地がわかれば、現在いる場所のこともわかるから、正しい方向へ進んでいくことができる」と述べています2)。当面のゴールを明確にすることは、プロセスの各時点で進捗状況や方向性を確認できる点からも重要だといえるでしょう。

患者さんをほめることの大切さ

患者さんの努力を引き出すためには、医療者がほめることが大切です。ほめることが運動機能の改善に結びついたという報告3)があります。

2010年、日本を含む7か国の脳卒中患者179名を対象とした国際研究において、歩行のリハビリテーションで、ほめられた患者群は10秒間に9.1m歩けるようになったのに対し、ほめられなかった患者群は7.2mにとどまり、ほめることで改善率が約1.8倍上昇したのです。

ほめることの効果について、2つの仮説を提示します。1つは、ほめられると気持ちがよくなって脳が活性化し、自信がついてゴールが明確になったという仮説です。もう1つは、ほめられるとドーパミンが放出されます。脳がドーパミンを得やすいように自身の構造を変えようとした結果、歩くときに必要な神経回路が強化され、より歩きやすくなったという仮説です。

一方で、ほめることの落とし穴には注意が必要です。「少し運動しただけ」「0.5kg体重が落ちただけ」でほめられると、「ほめられるのが当たり前」になってしまい、「ほめられたいから頑張ろう」という目標がなくなってしまいます。安易にほめると、馬鹿にされたと感じる患者さんもいます。具体的に、すかさず、ほめるべきときにほめるのがポイントです。

■臨床に役立てる

<事例1>
【対象】肥満傾向で、普段あまり運動しない患者さん
【目標】運動習慣を身につけること
【具体的話法】
「1日1万歩をめざしましょう」「週に3日は汗をかくぐらいの運動をしましょう」
【一言コメント】
目標設定のときには1つずつ提案するよりも「1日1万歩と、週に3日は汗をかくぐらいの運動するのとどちらがやりやすそうですか?」と、患者さんに選んでもらうことが自発性を促してくれます。

<事例2>
【対象】肥満の患者さん
【目標】体重を減らすこと
【具体的話法】
「とりあえず、体重は●●kgをめざしましょう」
【一言コメント】
まず、目標を低く設定して達成感を味わってもらうことが大切です。

文献
1)
Lynn J, Adamson DM.: Living well at the end of life, Adapting health care to serious chronic illness in old age. Pittsburg, Rand Corporation, 2003, WP-137.
2)
スティーブン・R・コヴィー, 完訳 7つの習慣30周年記念版. 東京, FCEパブリッシング キング  ベアー出版, 2020年, p.118.
3)
Dobkin BH, et al.: Neurorehabil Neural Repair. 2010; 24(3): 235-42.

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