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糖尿病スティグマとアドボカシー対応

松田 友和 先生・山田 祐一郎 先生

糖尿病内科まつだクリニック    
院長    
松田 友和 先生(左)

関西電力病院    
副院長    
山田 祐一郎 先生(右)

人をつなぐ医療をつむぐ

 日本糖尿病協会は2022年11月7日、アドボカシー活動の一環として開催したメディアセミナーのなかで、「糖尿病」という呼称の変更を検討する方針を明らかにしました1)。糖尿病にはその語感から「食べ過ぎ」や「自己管理ができない」などの“ 負の烙印”(スティグマ)がつきまとい、就職やマイホームの購入、生命保険の加入などのライフイベントにおいて不利益を被るケースも報告されています2)。なぜ、糖尿病の名称変更が必要なのか。スティグマには、どのような種類があり、患者さんとはどのようなコミュニケーションを取るべきなのか。そこで今回は、同協会の業務執行理事としてアドボカシー活動に取り組まれている関西電力病院副院長の山田祐一郎先生と、実臨床をしながらセルフスティグマについて研究されている糖尿病内科まつだクリニック院長の松田友和先生にお話を伺いました。

糖尿病スティグマへのアドボカシー活動  
関西電力病院 副院長 山田 祐一郎先生

 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)においても、スティグマが大きな問題になりました3)。感染した人に対する家族・同僚からの強い非難、社会からの差別、あるいは発熱・咳嗽患者の受診が制限されるといったことがありました。社会的疎外だけでなく、治療機会の減損や自尊感情の低下をもたらしたのです。医療従事者側も保育園に子供を預かってもらえないといった制限を受けました。感染症はスティグマを引き起こしやすいのですが、COVID-19は想像以上のスティグマをもたらしました。     
 現在は、COVID-19に対するスティグマはかなり減少しました。多くの人が感染したことに加えて、重症になるケースが少ないことが分かってきたからです4)。 
 また、COVID-19では「自宅療養」、「宿泊療養」という言葉がよく使われました。厚生労働省によると、自宅療養の英語訳は「Stay home for isolation」です5)。Isolationは「隔離」です。隔離のために自宅にいてくださいという意味なのです。一方、糖尿病診療においては「糖尿病療養指導」という言葉をよく使います。この3年間は、糖尿病のある人に対する言葉遣いを気をつけなければならないと改めて感じていました。 
山田 祐一郎先生  「コントロール」という言葉もよく使います。コントロールは「制圧」を意味します。本来であれば「Reduce impact」、“重し”を減らすという姿勢が求められるのだと思います。 
 日本糖尿病学会が示している「糖尿病治療の目標」は6)、医療者からの視点でまとめられたものです。糖尿病のある人を診たら合併症に気をつけて糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを目指すとされています。この目標を糖尿病のある人から見ると、目標はその人ごとに異なるはずです。医療者による合併症予防、併存症予防などの強い指導やスティグマにより、目標達成の妨げになるリスクも考えなければなりません。Reduce impactとは逆行する“大きな重し”を受診者に与えてはならないのです。 
 「網膜症が悪化すると失明しますよ」「腎症があると透析が必要になりますよ」というように、最悪な状態を説明して治療に参画してもらうやり方は、多くの場合、うまくいかないと思っています。合併症や併存症を早期に発見して治療をするというスタンスで、糖尿病のある人に接するべきです。網膜症は半年に一度検査をしましょうというように、脅しではなく、「重しを軽くする」コミュニケーションを取りながら、受診者と向き合っていくことが求められます。 
 糖尿病のある人もCOVID-19と同様に、周囲の知識と理解の不十分さによって家族・同僚から非難され、社会から差別を受けます。例えば、糖尿病があるというだけで生命保険に入ることができない、住宅ローンを借りることができない、就職が不利になる、怠け者のような目で見られるといった反応を受け、自尊感情の低下により、糖尿病の増悪につながります(表16,7)。

表1 糖尿病のスティグマの類型

表1 糖尿病のスティグマの類型

日本糖尿病療養指導士認定機構.糖尿病療養指導ガイドブック2023. 
メディカルレビュー社.2023.より引用

図1 糖尿病のスティグマの構造

図1 糖尿病のスティグマの構造

田中.日本糖尿病教育・看護学会誌.2022;26(1):85-89.より引用

 このような社会的なスティグマの他に、医療従事者による糖尿病スティグマも存在します。「あの人は糖尿病だから、全然言うこと聞かない」「『糖尿病気質』ってあるよね」「今日はHbA1c が上昇していますね。何か食べ過ぎましたか?」というように、糖尿病のある人が悪いことをしていることを前提に話してしまう。逆に、「あの人は血糖値もいいし、理解力もあるから、手のかからない良い人だ」という偏見も存在するのではないでしょうか。  
 糖尿病のスティグマを分類すると表1のようになります2)。「社会的スティグマ」「乖離的スティグマ」「自己スティグマ」の3つで、これらの経験に基づいた「経験的スティグマ」と、スティグマを回避する「予期的スティグマ」に分けられます。乖離的スティグマとは、模範的な患者さんのイメージからの乖離のため、「間食が咎められる」「インスリンを拒否すると叱責された」などがあります。自己スティグマは自尊心の低下です。予期的スティグマとして、糖尿病のことを家族にも言わなかったり、隠れて注射をしたり、隠れ食いをする。宴会や会合に参加しないこともあります。  
 糖尿病スティグマの実態を調査するために、関西電力病院を中心として「Kanden Institute Stigma Scale」(KISS)というスケールを作成しました8)。  
 2型糖尿病がある人に、先ほど触れた6つのスティグマそれぞれに関する4つの代表的な質問をして、当てはまるか否かを確認するものです。例えば、「この病気のために他人との交流を避けている」という項目がありますが、これは自己スティグマ×予期的スティグマに入っています。  
 その結果、糖尿病のある人は、糖尿病のない人(高血圧、脂質異常症、高尿酸血症のいずれかで通院中の人)と比べて、6つのカテゴリーすべてにおいて有意に高いことが分かりました(いずれもp <0.05、Mann-Whitney’s U 検定)。改めて、さまざまな方面から糖尿病のある人にスティグマを与えているといえます。  
 このようなスティグマを払拭するために、2019年に日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の合同で「アドボカシー委員会」が発足しました9)。社会的な弱者の権利を擁護するのがアドボカシー活動です。同年の世界糖尿病デーのポスターには「偏見にNo! 糖尿病をもつ人は、あなたと同じ社会で活躍できる人です」と掲げました。これまでは糖尿病そのものや合併症に対する注意喚起を行ってきましたが、初めて社会に対して問題提起をしました。  
 国内で糖尿病に名称が統一された1907年にノーベル文学賞を受賞したRudyard Kiplingの言葉に「言葉は言うまでもなく、人類が用いる最も効き目のある薬である」というものがあります。言葉は重要なのです。スティグマを生むような医療用語を何とか改革したいという願いでプロジェクトを始めたわけです。  
 先ほどから私は“ 糖尿病患者” とは言わずに「糖尿病のある人」と表現しています(表210)。英語では「Person with diabetes」です。血糖コントロールも、英語圏では「血糖マネジメント」(Glycemic management)といわれています。マネジメントには、一緒になって行うという意味があるため、一方的なコントロールよりも内容に即していると思います。  
 実際に名称が変更になった代表的な疾患に「統合失調症」があります。以前は「精神分裂病」でした。1993年に全国精神障害者家族会連合から日本精神神経学会へ名称変更の要望があり、2002年に同学会が統合失調症という呼称を採用しました11)。法改正を経て正式に変更されたのは2005年のことでした12)。「病」ではなく「症候群」としたことも注目を集めました。  
 糖尿病については、これから議論を重ねていかなければなりませんが、患者会からも名称変更の要望が届いていますし、アドボカシー活動を通じて最終的に良い方向につながることを願っています。

表2 スティグマをもたらすことばの見直し

表2 スティグマをもたらすことばの見直し

日本糖尿病協会.スティグマを生じやすい糖尿病医療用語と代替案.より引用

セルフスティグマの現状と対策   
糖尿病内科まつだクリニック 院長 松田 友和 先生

 実臨床や臨床研究を通じてセルフスティグマについて感じていることを共有したいと思います。先ほど、山田先生からスティグマの分類に関する話がありましたが、スティグマの概念は、①実際に起きたスティグマ、②感じられたスティグマ/予測されたスティグマ、③内在化されたスティグマ/セルフスティグマ――という3段階にも分類できると思います13)。このうち、最も問題なのがセルフスティグマだと感じています。ネガティブなステレオタイプを自身に当てはめて、自らのことを恥ずかしいと感じてしまう状態です。 
 セルフスティグマのポイントは、個人の性格や気質上の問題ではないということです。スティグマを経験したり、予測するという段階を経て陥るスティグマであり、自己効力感や抑うつ状態などとは独立して、自己管理行動を予測する重要な要因とされています。 
 さらに注意が必要な点は、糖尿病と共に生きていく上で問題になることだけでなく、日々の社会生活を生き抜く“ 一人の人”としての自己像全体にも影響を及ぼすこと。つまり、糖尿病から発生したセルフスティグマがその人の人生にも影響を与えてしまうことです。 
松田 友和 先生 セルフスティグマに関連した「恥」と健康行動についても研究が重ねられており、恥ずかしさを経験する2型糖尿病の人々は、不適応行動(不健康な行動)を増加させてしまうことが分かっています14)。周囲の人から提供されるものを拒否したくないため、意図的に不健康な食品を選んだり、他人の反応を心配してインスリン投与や血糖モニタリングを遅らせたりする人もいます15,16)。 
 そこで、神戸市看護大学の稲垣聡先生らと共同研究を行い、「糖尿病を持つ人」を対象に、2021年7月に「恥ずかしさ」に関するアンケート調査を実施しました17)。セルフスティグマの指標として、「あなたは、糖尿病であることを恥ずかしいと思うことはありますか?」「あなたは糖尿病であることを同僚や友人など周りの人に伝えていますか?」という問いを設定しました。 
 全体では糖尿病であることを恥ずかしいと感じている人は32.9%いましたが、恥ずかしいと感じている人の約1/3が周囲に糖尿病であることを隠していることが分かりました。 
 逆からみると、周囲に伝えていない人では、糖尿病を恥ずかしいと感じている人が、伝えている人よりも2.6倍多いことが分かりました(図217)

図2 「恥ずかしさ」と「糖尿病を隠すこと」の関係

図2 「恥ずかしさ」と「糖尿病を隠すこと」の関係

Inagaki S et al.BMJ Open Diab Res Care. 2022;10:e003001.より作成

 さらに、恥ずかしさが発生する要因を二項ロジスティック回帰分析したところ、糖尿病関連の恥と統計的に関連する項目は、年齢、性別、教育レベル、経済的負担、自己効力感、統制的動機(外圧による動機)でした。特に、経済的負担の大きさが恥ずかしさと関連していることは大切な知見だと考えています。 
 また、これらの結果を踏まえて、実臨床の場で、私たちがセルフスティグマに対処していく方法の1つとして、自律的動機づけ(その人の内側から湧いてくる動機)を高めていくことが大切だと考えています。 
 まずは動機づけレベルを定量化することが大切だと考え、稲垣聡先生らと共に日本語版糖尿病自己管理行動の動機づけ尺度の質問票を開発しました18)。質問のうち、「糖尿病とともに生きる方法を学ぶことは自分にとって意味があるから」、などは自律的動機になりますし、「そうしなかったら、自分自身を恥じることになるから」と「他の人をがっかりさせたくないから」は統制的動機づけの指標になります。 
 さらに、糖尿病患者のセルフケア行動を測定できる評価尺度として、最も活用されているひとつであるJ-SDSCA(The Summary of Diabetes Self-Care Activities Measure)の設問のうち、「一般的な食事」「特殊な食事」「運動」「フットケア」「糖尿病治療薬の服用」のみを採用したJ-SDSCA-rを用いて、糖尿病自己管理行動に動機づけレベルが及ぼす影響について、2型糖尿病の人を対象に2021年7月に調査しました18,19)。 
 その結果、一般的な食事に関する質問では、全くできていない人としっかりできている人が両極端となった一方、特殊な食事(油ものや野菜)は、比較的多くの方が実践できていると回答されていました。治療薬の服用に関しては、ほとんどの方が実践できていましたが、運動療法やフットケアは、ほとんどの方が実践できていないと回答されていました。 
 糖尿病自己管理行動に動機づけレベルが及ぼす影響については、統制的動機および自律的動機ともに、動機づけレベルの高さが自己管理行動の実施、および自己効力感と相関していました。自律的動機は、より強い相関を認めました。HbA1c やBMI など、いわゆる臨床的なアウトカムについては、統制的動機との関連がなく、自律的動機と関連していることが分かりました19)。 
 これらの結果により、自律的動機づけを高めるような療養支援を行うことで、心理的な負担感を増すことなく、自己管理行動を促すことができるのではないかと考えています(図3)。 
 食事と運動に関連する因子を探索したサブ解析では20)、食事療法を週に4日以上行う人の特徴は、「飲酒習慣がない」「年齢が若い」「自己効力感が高い」「自律的動機が高い」でした。一方、運動を週に3日以上行う人の特徴は、「BMIが低い」「教育入院歴がある」「合併症がある」「自己注射をしていない」「自律的動機が高い」となっていました。食事、運動ともに「自律的動機が高い」人が入っています。やらされている感、すなわち統制的動機では食事療法や運動療法につながらないと考えられます。 
 どのような関わりが、2型糖尿病をもつ人の自律的動機を向上させるかについては、不明な点が多いのが現状です。動機づけ面接法などが注目されていることや、研究や実臨床で感じていることをまとめると、スモールステップといわれる、成功体験の積み重ねや、医療従事者などとの関わりにより自律的動機を高めることができると感じています。糖尿病は、実感することが難しい疾患ですが、SMBG、CGM、フットケアなどで糖尿病を体感することは、自律的動機を促す大きなきっかけとなるのではないかと考えています。

図3 自律的動機づけを促すための療養支援(案)

図3 自律的動機づけを促すための療養支援(案)

松田友和先生ご提供資料

医療従事者が注意すべき
乖離的スティグマ

― 海外では、どのようなアドボカシー活動が行われており、どのような成果を上げているのでしょうか。また、海外の活動のなかで日本においても有効な内容はありますでしょうか。
山田先生 IDF(International Diabetes Federation:国際糖尿病連合)が言葉を見直すプロジェクトを実施しています。論文などでは、Diabetes patientからPerson with diabetes に変更するように指示されています。国内では、糖尿病を“DM”(diabetes mellitus)と呼んでいますが、mellitus は「蜜」という意味であり、良くないので海外ではほぼ使用されていません。Diabetes で統一されています。その他のアドボカシー活動では、インスリンの価格が高い国では必要な人が治療を受けられないという観点から、価格の引き下げが中心になっています。
 言葉の変更に話を戻すと、糖尿病を別の名称に変更すると発表したら、大きな論争が巻き起こることが予想されます。論争が起こることで、なぜ変更する必要があるのかということをお伝えしやすくなると期待しています。その結果、最終的に変更されずに糖尿病のままになるかもしれません。少しずつですが、糖尿病という名称が抱える問題について、医療従事者の間でも認識が広がっていると感じているので、論争が起きることについては前向きに捉えています。
― 医療従事者による影響を受けやすい乖離的スティグマについて、医療従事者はどのようなことに注意すればよろしいでしょうか。
山田先生 糖尿病のない人でも食べ過ぎている人もいれば、食べ過ぎていないのに糖尿病の人もいます。「糖尿病の人=過食」というレッテルを貼らずに、個別にエビデンスベースで診療を行うことが大切だと思います。これからの若い世代の医師が、ステレオタイプな考えを排除して診療ができるような体制を我々はつくっていかなければならないと思っています。
― スティグマが患者さん側または医療従事者側のクリニカルイナーシャ(臨床的惰性)にどのように影響する可能性があるでしょうか。
山田先生 高血糖や合併症に対して、統制的動機に訴えかけても、うまくいかないことは先ほど述べたとおりです。一方で、医療従事者はクリニカルイナーシャが発生しないように診療を行う責任があります。医療現場では「この人に言っても無駄だろうな」と思ってしまうことがあるかもしれません。しかし、その人が外来診療に訪れるということは、動機を持って来院されているわけですから、必要な治療を必要なタイミングで実施する必要があります。
松田先生 熱心なコミュニケーションが報われずに医療従事者側がバーンアウトしてしまう。それを回避するためにクリニカルイナーシャが発生してしまうこともあると考えています。しかし、山田先生が指摘されたように、診察室に来る患者さんは、動機を持っているはずです。それぞれの人にとって、成功体験となるスモールステップはどうするべきなのか。一人ひとりの想いを聞くところからスタートする必要がありそうです。そういった観点からも、糖尿病診療においては、看護師などのメディカルスタッフの役割はとても大切だと考えています。
― 糖尿病予備群に早期受診を促すためには、どのようなアドボカシー支援が重要だと思われますか。
山田先生 2008年に特定健康診査・特定保健指導が義務化されてからは「会社から言われて来ました」という人が増えました。アクセスが良くなったことは歓迎すべきですが、糖尿病という診断がついてしまうと、住宅ローンを借りることが難しくなったり、生命保険に加入できないということが起こり得ます。このことが受診抑制につながっている可能性を否定できません。
 アドボカシー活動の一環として生命保険会社などに働きかけていますが、今日においては糖尿病のある人の方が糖尿病のない人より早く亡くなるというエビデンスはありません。近々、日本糖尿病学会より急性期病院においては、糖尿病のある人とない人の死亡年齢の調査結果が発表される予定です。このようなデータを揃えて、改めて関係各所にアドボカシー活動を展開していきたいと思います。糖尿病であることが不利益につながらない社会にしなければなりません。

患者さんの行動変容に必要な自律的動機

― 具体的にどのような医療従事者の対応が患者さんの行動変容(セルフケア行動)につながりますか。
松田先生 先ほども触れましたが、CGM などを活用して血糖値の推移が良くなったり、体組成計により筋肉量が増えたことが実感できたりすると自律的動機が高まると思っています。そのような臨床経過に対して医療従事者が寄り添い、具体的に称賛することにより患者さんの治療へのコミット度合いが高まります。
 自己管理行動を促すためには、丁寧な説明が必要です。正しい情報と自律的動機づけがあれば、「私たち(医師)はいらないのではないか?」と思うほど、本当に患者さんは良くなっていきます。糖尿病の治療を受けることで、他の病気も含めてしっかりとマネジメントできているからだと思います。
 私が糖尿病のある人によくお伝えしていることは、「昭和初期の暮らしをしていたら、あなたは糖尿病になっていなかったかもしれない。でも、今は平均的な生活をしていても糖尿病になる人はいる。あなたは体質の関係で糖尿病になったけれども、きちんとマネジメントすることで、糖尿病がなかった場合よりも長生きできます」ということ。決してレッテルを貼らないことです。
― 実際の療養指導の中では、自律的動機を高めるコミュニケーションだけでなく、患者さんによっては統制的動機づけも意識して、組み合わせた指導をされることもあるのではないでしょうか。
松田先生 理想は自律的動機づけにより、患者さんが納得して治療に参加していただくことがベストですが、残念ながらそのような人ばかりではありません。かといって強めに統制的動機づけをするのではなく、「次回までにこれをやってみましょう」というスタンスで話をしていますが、血糖値などの状況から急を要する場合は統制的動機づけが必要なこともあります。
― 糖尿病の名称変更を検討していることについて、発表した経緯と、それに対する社会の反応はどうだったのでしょうか。また、社会の反応に対して、今後どのように対応していくことを想定されていますか。
山田先生 2022年に日本糖尿病協会がメディアセミナーを開催しました1)。その際、アドボカシー活動の内容に加えて糖尿病の名称変更を検討する方針を明らかにしたところ、名称変更の部分だけが切り取られて多くのメディアに紹介されました。ニュースサイトのコメント欄には、数千のコメントが寄せられました。最初は「言葉遊びである」という反応が多かったのですが、変更しなければならない理由を理解していただいたコメントが少しずつ増えてきました。これが「名称変更を検討」ではなく、実際に「変更」となれば、さらに多くの意見が寄せられることになると覚悟しています。
 糖尿病を英語に直訳すると「Glycosuria disease」です。この英訳を海外の人に伝えても伝わりません。国際的に整合性を持たない名称ですし、病態に基づいた名称でもありません。このようなことも含めて、なぜ変更しなければならないのかを丁寧に説明し続けたいと思います。
― 今後の目標・課題についてお聞かせください。
松田先生 山田先生の話をうかがって、私たち医療従事者が、糖尿病に対する認識を歪めるひとつのきっかけをつくってしまったのだと痛感しました。高血圧症に使わない「療養」という言葉を、なぜ糖尿病では使うのか。本当に根が深い問題なのだと思います。私たちにできることは、目の前の患者さんに対して、スティグマを払拭できるように接し、正しい情報を発信していくことだと認識しています。自律的動機づけについては、今後も研究を進めたいと思っています。
山田先生 私がこれまでやってきたことは、糖尿病のある人の“ 重し” を減らすことです。高血糖という重しを減らすために、様々な医薬品の研究にも携わってきました。そして、現在はスティグマという重しを本当に減らしていくには、どうすれば良いのかが最大の課題だと思っています。糖尿病のある人の自律的動機を高めて、共に重しを軽くするような取り組みを進めていきたいと思います。

取材日:2023年7月8日

後日談: 糖尿病の新たな呼称「ダイアベティス」の記者会見発表について(山田先生)

2023年9月22日に、日本糖尿病協会と日本糖尿病学会が合同で、糖尿病の新たな呼称として「ダイアベティス」とする案を発表しました。今後、多くの方とのディスカッションを行うことになります。糖尿病に対する誤解や偏見を払拭することが目的でございまして、本記事に記載されている「スティグマ」を解消するための大きな前進と考えております。(2023年10月20日)

文献

1)

日本糖尿病協会.REPORT2022.

2)

日本糖尿病療養指導士認定機構.糖尿病療養指導ガイドブック2023.メディカル

3)

武藤.医療と社会2022;32(1):83-93.

4)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第9.0版.2023年2月10日.

5)

厚生労働省ウェブサイト.https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/qa_03. 
html#:~:text=If%20you%20have%20been%20considered%20a%20%E2%80%9Cclose%20contact%E2%80%9D%2C,terminate%20your%20period%20of%20isolation%20after%20Day%205 2023年9月1日閲覧.

6)

日本糖尿病学会.糖尿病治療ガイド2022-2023.文光堂.2022

7)

田中.日本糖尿病教育・看護学会誌.2022;26(1):85-89

8)

Tanaka N et al. J Diabetes Investig. 2022; 13(12): 2081-2090.

9)

日本糖尿病学会、日本糖尿病協会.PRESS RELEASE.2019年11月8日.

10)

日本糖尿病協会.スティグマを生じやすい糖尿病医療用語と代替案.https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/wordreplacement_advocacy.pdf 2023年9月10日閲覧.

11)

日本精神神経学会ウェブサイト.https://www.jspn.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=58 2023年9月1日閲覧.

12)

厚生労働省ウェブサイト.https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/01/s0125-5c.html 2023年9月1日閲覧.

13)

加藤.医学のあゆみ.2020;273(2):158-161.

14)

Solomon E et al.Diabetes Spectr. 2022;35(2):216-222.

15)

Wellard SJ et al.Contemp Nurse. 2008;29(2):218-226.

16)

Holmes-Truscott E et al.J Diabetes Complications. 2016;30(6):1151-1157.

17)

Inagaki S et al.BMJ Open Diab Res Care. 2022;10:e003001.

18)

稲垣ら. 糖尿病. 2022;65(1):26-33.

19)

阿部ら. 第65回日本糖尿病学会年次学術集会. 口演Ⅰ-36-2.

20)

稲垣ら. 糖尿病. 2023;66(9):675-685.

記事作成日:2023年12月

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