座談会
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病※治療におけるアンメットメディカルニーズとケレンディアの意義
※本剤の効能又は効果は「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。」
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病治療におけるアンメットメディカルニーズ
Key point
- eGFR低下とUACRの増加は、心血管・腎イベントの独立した予測因子であり、その異常を早期にとらえ治療介入することが重要
- 心腎連関という負の連鎖の遮断を視野に入れた早期発見、早期介入が重要であり、UACRの評価は欠かせない
- 病態の進行過程にMRの過剰活性化を介した炎症および線維化が関与し、新たな治療標的として注目

綿田 裕孝 先生
綿田(司会) 本日は「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)治療におけるアンメットメディカルニーズ」をテーマに、腎臓領域と循環器領域からエキスパートの先生をお招きして議論したいと思います。
糖尿病に伴うCKDを有する患者は年々増加しています。特に1998年以降、糖尿病性腎症は本邦における透析導入の原因疾患として第1位を占め1)、その克服は喫緊の課題です。糖尿病性腎症の成因には高血糖のほか、高血圧、脂質異常症などが関与します2)。そのため、治療はこれらリスク因子に対する集学的管理が主軸となります。しかしながら、現在までその発症・進展を完全に阻止するまでには至っていません。このようなアンメットメディカルニーズを背景に、最近、糖尿病性腎症をはじめとする病態解明も進み、新たな治療アプローチが期待されています。はじめに深水先生から、2型糖尿病を合併するCKDの疫学や病態についてご解説をお願いします。
2型糖尿病合併CKDのリスクとその予測因子
深水 糖尿病とCKDは、ともに末期腎不全のリスクであるだけでなく、心血管イベントの強力なリスク因子となります3)。また両者の合併は心腎連関を増強させます4)。
心血管疾患リスクを有する2型糖尿病患者を対象としたADVANCE試験では、ベースライン時の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の増加と推算糸球体ろ過量(eGFR)の低下に伴い、腎イベントだけでなく、心血管イベントや心血管死の発症リスクが上昇したことが報告されています3)。さらに、eGFRが正常でもアルブミン尿が認められればリスクが上昇することから3)、eGFRとUACRは互いに独立したリスク因子と考えられています。そのため、UACRを減少させることは、糖尿病やCKDを合併する患者の予後を考えるうえで重要な治療目標となります。
綿田 糖尿病に伴うCKDでは、心腎連関という負の連鎖の遮断を視野に入れた早期発見、早期介入が重要であり、それにはUACRの評価は欠かせないともいえますね。ところが、定期的に検査されることは多くはないのが現状だと思います。佐藤先生は循環器専門医の立場からこの現状についていかがお考えになりますか。
佐藤 糖尿病性腎症は微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿となりeGFRが低下するという進行を理解してはいても、循環器領域では主にeGFRのみに注目することが多かったように思いますが、新たな薬剤の登場もあり、最近はUACRにも注目するようになったとの印象を持っています。
綿田 一方、最近は顕性アルブミン尿を伴わないままeGFRが低下する非典型的な経緯をたどる患者が存在し、「糖尿病性腎臓病 (DKD)」、さらには「糖尿病合併CKD」などの概念が提唱されるなど、その臨床像は多様化しています。ここからは糖尿病性腎症の病態の進行メカニズムについてお伺いしたいと思います。
2型糖尿病合併CKDの進行要因
深水 糖尿病性腎症では、慢性的な高血糖状態がもたらす細胞や組織での代謝異常が起こります。さらに糸球体過剰ろ過などの腎血行動態異常や炎症および線維化などが相互に影響し合うことで病態が発症・進展すると考えられています5)。典型的な経過としては、腎臓では最初に糸球体が障害を受け、微量アルブミン尿が出現します。その後、ポドサイト障害の進展とともに、顕性アルブミン尿(蛋白尿)へと移行していきます。慢性的な曝露はアルブミンを再吸収する尿細管にも障害をもたらします。そして尿細管間質の線維化へと波及し、ネフロンの喪失とともにGFRの低下を引き起こします。図1は当施設のDKD患者の腎生検所見です。左の正常な腎臓では9割が尿細管できれいに覆われていて、尿細管と尿細管の間はほとんど隙間がない状態です。一方、右のDKDの腎臓では、まず糸球体が大きく肥大してきます(黒矢印)。硬化した糸球体のまわりには線維化が広い範囲で起きています(青色部分)。血流が低下することで尿細管は萎縮(濃く赤みを帯びた部分)し、尿細管間質の線維化が起こります。これを間質線維化・尿細管萎縮(IFTA)と呼びますが、進行すると腎機能が低下していきます。

深水 圭 先生
綿田 腎生検は、腎臓領域の先生方にとっては一般的かもしれませんが、われわれにとっては興味深い所見です。この画像のようにある範囲を見たとき、一部の糸球体が障害されることで、残された正常な糸球体に負荷がかかって肥大化し、その障害が次々に波及していく。今後、自身の診療でも腎臓はこういう状態になっていくのだと理解し、早い段階から予防的介入を行うことがいかに重要か認識させられますね。
深水 残された糸球体を保持するために、アルブミン尿/蛋白尿の改善を治療標的とすることは、尿細管間質の線維化の改善にも有用です。さらに代謝や血行動態異常、そして炎症と線維化は、腎臓だけでなく心臓などの臓器にも及び、臓器障害を進行させていきます5)-7)(図2)。そのため、血糖・血圧管理はもちろんのこと、炎症と線維化への治療アプローチが重要になると考えます。
【図1】DKD患者の腎生検所見(PAS染色×200)

深水 圭 先生ご提供
【図2】2型糖尿病を合併するCKDの進行要因と心臓および腎臓における病態の進行メカニズム

医療情報科学研究所 編 病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌 第5版 東京, メディックメディア, 2019, p90, 医療情報科学研究所 編 病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第3版. 東京, メディックメディア, 2019, p188, da Silva JS, et al. Cells. 2022;11:240, Bauersachs J, et al. Hypertension. 2015;65:257-63, Alicic RZ, et al. Clin J Am Soc Nephrol 2017; 12:203245., Mora Fernández C, et al. J Physiol 2014;592:3997-4012. より作図
残余リスクに対する新たな治療アプローチ
綿田 次に、糖尿病を合併するCKD患者への治療アプローチについてお伺いしたいと思います。
深水 2型糖尿病を合併するCKD患者に対し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 (RAAS) を抑制する薬剤の有用性が確立しています8)9)。さらに最近では、SGLT2阻害薬の腎保護効果が相次いで報告され10)11)、治療の変革期を迎えています。しかし、本邦での糖尿病に起因する透析患者数は高止まりしている状況でもあり、依然残余リスクが存在します。さらなる腎保護効果が求められるなか、新たな治療選択肢としてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (MRA) のケレンディアがエビデンスを蓄積しており、注目を集めています。
佐藤 MRは循環器領域でも体液・血圧調節に重要なホルモン受容体となります。その作用をブロックするMRAは高血圧症や慢性心不全の標準治療薬として重要な位置づけとなっています12)13)。さらに最近の研究により、MRの過剰活性化が、臓器障害を引き起こすことが明らかになっています7)14)。そのため、MRAによる直接的な臓器保護効果が期待されています。
綿田 MRの過剰活性化はどのように引き起こされるのでしょうか。
佐藤 MRが活性化するメカニズムとしては、古くからRAASを介したアルドステロン依存経路が知られています。しかし最近、アルドステロンとは無関係に、糖尿病、CKD、食塩過剰摂取などの病態下で、Racl(Ras-related C3 botulinum toxin substrate 1)を介してMRが過剰活性化し、心臓や腎臓での臓器障害に関与することが明らかになっています14)。
その結果、心臓では炎症や一酸化窒素 (NO) の産生抑制などによる心筋線維化や心肥大を引き起こすと考えられています14)。
深水 腎臓では、これらの経路を介して尿細管細胞のほか、内皮細胞、血管平滑筋細胞、ポドサイトなどでMRが活性化し、腎障害を惹起します15)。
われわれは、MR活性化モデルであるDOCA-salt高血圧マウスのポドサイトにおいてMRとRac1が共局在すること、MRの過剰活性化が糸球体障害を引き起こし、アルブミン尿を発症させることを報告しました16)。このことは、MRを治療標的とすることで、アルブミン排泄を抑制し、尿細管障害ひいてはCKDの進展抑制の可能性を示唆するものです。
佐藤 DOCA-salt 高血圧ラットを用いた検討において、ケレンディアが血圧に影響を及ぼさない用量で炎症と線維化のマーカーの発現を抑制したことも興味深い知見です17)。
綿田 MRの過剰活性化は重要な治療標的になりうること、さらに心・腎保護という点でケレンディアの役割が期待されるところです。
続いて佐藤先生から2型糖尿病を合併するCKDに対する新たな治療選択肢となったケレンディアのエビデンスをご紹介いただきたいと思います。