座談会
糖尿病関連腎臓病における
Point of Care Testingによる迅速な
尿中アルブミン測定の意義と早期治療介入の重要性
※:ケレンディア錠の効能又は効果は「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。」
POCTと糖尿病関連腎臓病の治療選択肢
Key point
- POCTでは即時に検査結果が出るため、検査当日にその場で患者さんに結果を共有できる
- ケレンディアは、2型糖尿病合併CKD患者を対象とした2つの国際共同第Ⅲ相試験の結果、主要評価項目である腎複合エンドポイント・心血管複合エンドポイントついて優越性が示された
POCTの意義は何か?
三浦 POCTとは、「被験者の傍らで医療従事者(医師や看護師等)自らが行う簡便な検査」とされています8)。先生方は、実際に尿中アルブミンのPOCTを活用されていると思いますが、この検査のメリット、デメリットをうかがいます。
西浦 外注の検査は結果が出るまでに数日かかりますが、当院で使用しているPOCT機は約5分で結果が得られるため、患者さんにその場で結果を共有できる点が大きなメリットです。尿蛋白定性検査(試験紙法)も結果が即時にわかるため、CKDのスクリーニングには有用です。しかし、糖尿病関連腎臓病の早期診断にはやはり尿中アルブミン測定が直要です。
試験紙法の結果が±または一の場合でも、尿中アルブミンの検出が疑われるような患者さんには、その場でアルブミン尿の有無をPOCTで即時に確認することが可能です。POCTは早期腎症の診断と治療介入を促進するうえで重要な役割を担っています。
POCTが早期治療介入につながった事例を紹介します。特定健診で血糖値が高く、尿蛋白定性検査で土の患者さんが相談に来られた際、POCTで尿中アルブミンを測定しました。その結果をすぐに患者さんに共有し、病状について詳しく説明することで、早期治療介入を実現することができました。
機器の導入に手間と費用がかかりますが、POCTで尿中アルブミンを測定する価値は十分にあると思います。
三浦 田中先生はいかがですか。
田中 POCTを導入する前、尿中アルブミン測定はすべて外部の機関に委託していました。外注検査では結果の報告までにタイムラグがあるため、UACRが増加し治療の強化を勧めた患者さんに「それは先月のデータだから、今は食事療法も頑張っているし治っているはずだろうから大丈夫」といわれたこともありました。POCTを導入して尿中アルブミンを測定するようになってからは、当日の検査結果を患者さんと一緒に確認できるため、説得力が増し、治療の必要性をスムーズに納得していただけるようになりました。
三浦 POCTにおける最大のメリットは、速やかに結果を得られることで、迅速な診断と治療方針の決定が可能になることですね。POCTを行ううえで注意点はありますか。
西浦 POCTに限ったことではないですが、尿中アルブミン測定では、食事や運動などの影響で一時的に検査値が高く出ることがあります。そのため、患者さんの日常生活の状況を把握し、疑わしい結果に対しては再検査を行うことで、検査値の再現性を確認することが重要です。
ケレンディアのエビデンス
三浦 ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬ケレンディアは、「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く」の効能又は効果で承認され、2022年6月に発売されました。
ケレンディアは、2塑糖尿病を合併するCKD患者を対象とした2つの国際共同第Ⅲ相試験が実施され、標準治療にケレンディアを上乗せした際のプラセボに対する優越性が示されました。ケレンディアのエビデンスについてご紹介します。
FIGARO-DKD試験9)
2型糖尿病を有する比較的早期のCKD患者を対象に、心血管系疾患発症に対するケレンディアの作用を検証するために実施されたプラセボ対照無作為化二重盲検試験です。CKDステージ1~2の患者や微量アルブミン尿の患者がそれぞれ約半数を占めていることが特徴です。主要評価項目は、心血管複合エンドポイント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院)、主な副次評価項目は腎複合エンドポイント(腎不全の発症、4週間以上持続するeGFR≥40%の低下、腎臓死)でした。
その結果、ケレンディアはプラセボに比べて心血管複合エンドポイントの発現リスクを13%有意に低下させることが検証されました(ハザード比[HR]0.87、95%信頼区間[95%CI]0.76-0.98、p=0.0264a))。腎複合エンドポイントのHRは0.87(95%CI 0.76-1.01、p=0.0689a))でした。
ケレンディア群の主な副作用※1で、最も多かったのは高カリウム血症(5.7%)で、次いで低血圧(1.4%)、血中カリウム増加(0.9%)、糸球体ろ過率減少(0.8%)でした。ケレンディア群の主な重篤な副作用※2は、高カリウム血症(0.4%)、急性腎障害(0.2%)でした(P10「副作用(安全性評価項目)」参照)。
a)
解析方法:層別Cox比例ハザードモデル及び層別Log-rank検定(層別因子:アルブミン尿区分、地域、 eGFRのカテゴリー及び心血管疾患既往有無)
※1:ケレンディア群で発現の多かった副作用の上位4事象
※2:ケレンディア群で0.1%以上認められた副作用
FIDELIO-DKD試験10)
主に顕性アルブミン尿を伴うCKDステージ3~4の2型糖尿病患者を対象として実施されたプラセボ対照無作為化二重盲検試験です。主要評価項目は、腎複合エンドポイント(腎不全の発症、 4週間以上持続する eGFR≥40 %の低下、腎臓死)、主な副次評価項目は心血管複合エンドポイント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院)でした。
その結果、ケレンディア群はプラセボ群に比べて腎複合エンドポイントの発現リスクを18%有意に低下させることが検証されました(HR0.82、95%CI0.73-0.93、p=0.0014b))。心血管複合エンドポイントの発現リスクも14%有意に低下させました(HR0.86、95%CI0.75-0.99、p=0.0339b))。
ケレンディア群の主な副作用※1で、最も多かったのは高カリウム血症(10.1%)で、次いで血中カリウム増加(1.9%)、血中クレアチニン増加(1.6%)、低血圧(1.5%)でした。ケレンディア群の主な重篤な副作用※2は、高カリウム血症(0.8%)、急性腎障害(0.3%)、低血圧(0.1%)でした(PlO「副作用(安全性評価項H)」参照)。
また、探索的評価項目であるUACRのベースライン時からの変化量について、ケレンディア群の4ヵ月後のUACRは、 FIGARO-DKD試験ではベースライン時から38%低下し11)、FIDELIO-DKD試験では35%低下しました10)(図2)。
b)
解析方法:層別Cox比例ハザードモデル及び層別Log-rank検定(層別因子:アルブミン尿区分、地域及びeGFRのカテゴリー)
承認時評価資料 (BakrisGL, et al.N Engl J Med. 2020 ; 383 : 2219-2229.)
[COi:本研究はバイエルの資金により行われた。著者にパイエルよりコンサルト料等を受領している者が含まれる]
承認時評価資料(PittB, et al. N Engl J Med. 2021 ; 385 : 2252-2263.) [COi:本研究はパイエルの資金により行われた]
西浦 FIGARO-DKD試験のサブグループ解析から、ケレンディア群ではUACRの改善だけでなく、プラセボ群に比べてアルブミン尿区分が改善した患者が増加し(HR1.82、95%CI1.69-1.96、p<0.0001a)、名目上のp値)、反対にアルブミン尿が悪化した患者が減少しました(HR0.59、95%CI0.53-0.66、p<0.0001 a)、名目上のp値)10)(図3)。
三浦 尿中アルブミンの値が下がるのは医療者側も嬉しいし、患者さんも喜んでくれます。患者さんの治療意欲向上につながるデータですね。
ケレンディアヘの期待
三浦 ケレンディアは、腎・心血管イベントの抑制だけでなく、アルブミン尿も改善したことから、糖尿病関連腎臓病治療における選択肢の1つになりました。最後にケレンディアヘの期待についてお聞かせください。
田中 糖尿病関連腎臓病の治療は包括的なアプローチであり、多くの患者はすでに複数の薬剤を使用しています。そのため、薬剤を追加する際にはポリファーマシーについても考慮し、アウトカムを改善させる効果が高い薬剤を優先的に導入することが望まれます。ケレンディアは既存の治療に加えて使用することで心腎イベントに対する有効性を発揮するデータが示されており、積極的な追加が望まれる薬剤です。こうしたエビデンスのある薬を使い、早期から腎臓を保護することが重要です。
西浦 ケレンディアを効果的に活用するためにも、eGFRだけでなくアルブミン尿も評価することと、より早期に糖尿病関連腎臓病を見つけるという心がけが重要です。その際、POCTは有効な手段となるでしょう。
三浦 明日からの診療に活かせる貴重なご意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。
解析方法:恩別Cox比例ハザードモデル及び唇別Log-rank検定(展別因子:アルブミン尿区分、地域、 eGFRのカテゴリー及び心血管疾患既往有無)
※1改善の定義: UACRがベースラインから30%以上低下し、かつアルブミン尿区分が顕性(UACR300mg/g以上5,000mg/g以下)から微呈(UACR30mg/g以上300mg/g未満)、 あるいは微星から正常(UACR30mg/g未満)に移行した患者
※2悪化の定義: UACRがベースラインから30%以上増加し、かつアルブミン尿区分が微昼(UACR30mg/g以上300mg/g未満)から顕性(UACR300mg/g以上5,000mg/g以下)に移行した患者
※3ベースライン時のアルブミン尿区分が微量(UACR30mg/g以上300mg/g未満)の思者を対象としたサブグループ解析
Ruilope LM, et al. Nephrol Dial Transplant. 2023; 38(2): 372-383.
[COI:本研究はパイエルの資金により行われた。著者にバイエルよりコンサルト料等を受領している者が含まれる]