座談会
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者へのコミュニケーション
益崎 2型糖尿病合併CKDの薬物療法は、いま大きな転換期を迎えていますが、こうした治療法の進歩がもたらすベネフィットを患者さんにお届けするためには、患者さんとのコミュニケーションスキルが重要となってきます。そこで、2型糖尿病合併CKD診療の最前線でクリニックの院長として多くの患者さんの診療に当たっておられる飯島康弘先生と瀧端正博先生をお迎えし、コミュニケーションのポイントやコツを伺っていきたいと思います。
2型糖尿病合併CKD患者さんに治療の必要性をどう理解してもらうか?
Key point
- 患者さんに腎機能の低下について説明する材料として、UACRとeGFRの検査値が重要
益崎 早期の2型糖尿病合併CKD患者さんは自覚症状がほとんどないため、治療の必要性や将来発症しうる合併症のリスクについてご理解いただくのは難しい場合もあると思います。先生方はどのような説明をされていますか。
瀧端 まず患者さんに説明するための材料、すなわち検査値を集めておくことが大事だと考えています。私の施設では、できるだけ一目で病状をご理解いただけるよう検査結果表に工夫を加えています。
1つ目の工夫は、院内のPOCT(point of care testing)機器を用いてすぐに結果が出る検査結果と外注検査機関から後日届く検査結果を合成し、血圧、体重から関連する生化学的検査値までの時系列の結果を、1シートで表示できるようにしていることです(表1)。このシートを見ながらまず糖尿病の状態を説明し、続いて腎機能、高血圧、脂質異常など、異常がある項目について説明していきます。
もう1つの工夫として、モニター上で検査項目をクリックすると経時的な推移をグラフで表示できるようにしています。たとえば、eGFRが低下してきている場合、検査値をクリックすると現在までの検査値の下がり方がグラフで視覚的に表示されますので、患者さんにも一目瞭然で説得力が上がります(表1)。
益崎 検査値が羅列され、患者さんにとって必ずしもわかりやすいとはいえない検査結果表が多いなか、1枚の結果表で問題点を見える化する工夫は是非普及させたいですね。
瀧端 腎機能は、3ヵ月に1回行っているアルブミン定量検査によるUACR(尿中アルブミン/クレアチニン比)、およびeGFRによって評価しています。特に、UACRは腎障害を早期発見するためにも必要な検査ですが、糖尿病診療の現場では測定されていない場合も多いようです。腎機能の低下を説明するためにはUACRとeGFRの検査値が重要ですので、定期的に測定されるよう、普及していくことが必要だと感じています。
ただ、この2つの検査値は患者さんには馴染みがないことが多く、数値だけでご理解いただくのが難しいため、併せて糖尿病性腎症の病期分類(表2)11)を用いて5段階でいうと何番目に悪い状態なのかを説明しています。「透析が必要になるのが5期で、今あなたは〇期まで進行しています」のように説明すると、ご自身のリスクを把握していただけます。
当院の外来では1日200~250人の患者さんを診察するため、患者さん1人あたりにあまり多くの時間を割くことができません。限られた診療時間の中で端的に病状を説明するためには、材料となる検査値が欠かせないと考えています。
【表1】

瀧端正博先生ご提供
【表2】

糖尿病性腎症合同委員会. 糖尿病性腎症病期分類の改訂について. 2013.
治療に前向きになってもらうためのコミュニケーション
Key point
- 患者さんがどう感じ、どう行動するかを意識しながら病態を説明し、主体的に治療に取り組んでもらえるようサポートすることが大切
- 腎機能検査の結果をもとに、透析を意識して腎臓の状態を説明する
益崎 2型糖尿病合併CKD患者さんに、糖尿病や高血圧症の治療に加えて腎臓に対する治療にも積極的に取り組んでいただくにはCKDの病態に対する理解も必要になってきます。CKDの病態から治療提案までの説明で工夫されている点をお聞かせください。
飯島 患者さんを治療するにあたっては、医師と患者間の考えの隔たりを理解しておく必要があります。医師はエビデンスをもとに治療を推奨するのですが、患者さんは「治療したほうがよいのはわかるけど、現状特に困っていないし、薬を飲むのにはお金も手間もかかる」、「今飲んでいる薬を変えるのは不安だからまた今度」となりがちです。このような医師と患者さんの隔たりを埋めていかなければ状況はなかなか変わりません。そこで私は、医師と患者さんの間においても「説明→相互理解→方針提案→交渉成立」というステップを踏むこと、患者さんが病気を認知して医療機関で診断・治療を進めていくプロセスの中で「どのように感じ、考え、行動する」のかを把握しながらコミュニケーションをとることが大切だと考えています。
CKDの病態については、病状が進行する前のなるべく早い時期に、少し時間をかけて腎臓の機能や重要性を説明するようにしています。その際、「腎臓は血液から老廃物や有害物質をろ過するザルのようなもの」、「ザルの目が壊れて荒くなるとタンパク質など必要なものまで流れてしまう」というようにわかりやすい例えを使うようにしています。診察時に説明しきれないことは疾患啓発の資材などをお持ち帰りいただき、家で読んでもらうようにもしています。そのようにして、腎機能の大切さをご理解いただいた患者さんは、ご自身の腎臓の状態が心配で受診されるようになりますので、次に腎臓がどのような状態なのか、どのような治療法があるのかなどをご自身から質問していただき、主体的に治療に取り組んでもらえるようサポートすることが大切だと考えています。ただし、治療方針の提案において、医師が躊躇すると後で患者さんが困難な状況に陥ってしまう可能性がありますので、後手に回らないよう早め早めの提案を心がけています。
腎臓の状態を説明するには、やはり検査結果が重要です。患者さんの負担を減らすための診療所の工夫として、血糖、脂質、尿などの主要項目は院内検査で行えるように体制を整え、なるべく一度の来院で採血からその結果を見ながらの病状説明、治療選択までを完結できるようにしています。
益崎 ありがとうございます。日常診療ではどうしても一方的な説明に陥りがちですが、糖尿病やCKDの治療では患者さんに理解し、納得していただくことはとても重要ですね。瀧端先生はいかがでしょうか。

瀧端 正博 先生
瀧端 私はさきほども述べましたように、検査値をもとに患者さんに説明しています。たとえばアルブミン尿が認められれば、本来必要なタンパク質が漏れ出てしまっているということであり、eGFRが低下していれば腎臓の機能が低下しはじめているということであるというように説明しています。やはり透析を意識する患者さんは多いので、eGFRが15を切ると透析を考えなくてはいけないよ、という話をすると、薬物療法へのモチベーションが上がります。もう少し詳しく知りたいという患者さんには少し時間を取って病態の説明をするようにしています。
薬物療法を受け入れやすくするための工夫
Key point
- 患者さんの治療への取り組みを評価したうえで、努力だけで改善させることが難しい病態には薬物療法という選択肢があることを提示する
益崎 患者さんに病状をご理解いただき、治療にも前向きに取り組んでもらっているのに思うように結果が出ず、患者さんが不安や不満を口にされることもあります。
瀧端 そのような場合、私は病態について話すようにしています。たとえば糖尿病の場合ですが、若いころ糖尿病になる前はいくら食べても血糖値は上がらなかったのに、ひとたび糖尿病を発症すると、生活習慣の改善や食事の制限に取り組んでも血糖値が下がりにくくなります。これは努力が足りないからではなく、背景にインスリン分泌能の低下とインスリン抵抗性の増大という糖尿病の病態があるからです。病態に対する対処法の1つとして薬物療法があるから、うまく治療に取り入れましょうといったことを説明しています。これは腎臓病の場合でも同じことがいえると思います。
飯島 当院では1人あたりの診療に5~10分とることができますので、患者さんが取り組んでこられたことをまずは詳しくお聞きします。そして患者さんの努力を前向きな取り組みとして評価したうえで、これからどうすればよいか、患者さんの将来的なリスクを抑えるためにここからどうアプローチすればよいかを提案するように心がけています。
2型糖尿病合併CKDに対するケレンディアの必要性をどう説明するか?
Key point
- 腎機能の低下が認められはじめたら、腎保護を念頭に置いた治療を開始する
- 1剤増えることを納得してもらうためには治療の意味をきちんと説明することが重要
益崎 2型糖尿病合併CKDの治療では炎症および線維化などへのアプローチが重要になりますが、患者さんにはどのように説明されていますか。2型糖尿病の患者さんにCKDに対する治療を追加する必要があるときの説明について工夫されている点があれば教えてください。
飯島 腎臓の炎症・線維化という病態を患者さんに理解していただくことは難しいと思います。しかし、糖尿病患者さんの場合は合併症としてCKDを発症し、放置しておくと悪化して最終的には透析に至りかねないという認識は持っておられます。したがって、血糖値がコントロールできていてもUACR増加やeGFR低下が認められはじめたら、腎臓を保護する作用のある薬剤があるので早め早めに手を打っていきましょうと説明してケレンディアを提案しています9)10)。
益崎 ありがとうございます。標準治療に加えて2型糖尿病合併CKDに対する薬物治療を追加するにはポリファーマシーという観点から1剤増えることを納得していただく難しさもあります。
瀧端 高齢者の場合は薬剤数が多くなりがちで、誤薬のリスクも高まります。そのため、基本的には合剤で薬剤数を減らしたうえで、できるだけ朝1回にまとめるように工夫しています。しかし、ケレンディアのように他に代用薬がない場合は、1錠増えますけど必要な薬なのでご理解くださいと率直に説明してご理解いただいています。

飯島 康弘 先生
飯島 薬剤を追加する意味をきちんと説明することは重要だと思います。私の施設ではサプリメントを服用しているかを質問すると、何種類も服用していると答える患者さんが多くおられます。体のためになるから種類が増えても気にならないというのです。このような患者さんの場合は、治療の科学的根拠がきちんと示されていて、かつ保険診療も認められている薬剤であることを説明すると、1剤増えることにさほど抵抗感はないようです。
益崎 最後に、CKDに対する治療を勧めるタイミングについてはどのように考えられていますか。
瀧端 糖尿病性腎症の病期分類(表2)11)でいうと第2期、CKDの重症度分類12)でいうとA2あたりから腎保護に重みづけをして治療しています。なかには、UACRは上がらないのにeGFRだけ下がってくる患者さんも見られますので、その場合にはGFR 45mL/min/1.73m2あたりから検討しています。
糖尿病専門医の視点では、2型糖尿病患者のCKD治療というとまず血糖値を下げなければならないという論調になりやすいですが、CKDの背景には糖尿病以外の病態が存在し、影響しています。最近は合併症を治療するという概念が定着してきていますが、やはり血糖管理の強化だけではなく、それ以外の原因も踏まえて腎臓などの臓器を守っていくことが大切であると考えています。
益崎 どのファクターに重みづけして治療するかは、医師の専門領域によっても考え方が異なる状況で、ときに難しい問題となります。しかし、現在、CKDをターゲットとした新しい治療薬が登場し、治療の考え方が再構成されつつあります。糖尿病合併CKDの治療には今、パラダイムシフトが起こっていますので、そのベネフィットを患者さんにきちんと届けていく必要があります。
ケレンディアの効果をどう説明するか?
Key point
- 腎臓の治療は短期間で結果が出るものではないことをご理解いただき、年単位で将来を見据えた未来志向の治療を行っていく意義を説明する
益崎 新しい薬剤を服用しはじめると、その効果がどれぐらい出ているかをよく質問されます。2型糖尿病合併CKDの治療薬であるケレンディアについてはどのように説明されていますか。
瀧端 短期的にはUACRの変化で説明しています。UACRが下がると心腎イベントの発生リスクが低下することが示されています5)ので、目安にはなると思います。ただし、UACRは変動しやすく改善しているのか、していないのかわかりにくい面もあります。したがって、腎臓の治療は結果が短期間で出るものではないので、ゆっくり時間をかけて治療を継続しましょうということも説明するようにしています。
飯島 なかなか結果が出ない薬剤に治療費をかける意味はあるのかと疑問を呈される患者さんもおられるのですが、そのような場合は、年単位で将来を見据えた未来志向型の治療をしていきましょうと伝えています。たとえば、ある薬剤を長期に服用してもらった後、発症する可能性があった合併症が幸いにも発症していなかったとしたら、まずは患者さんの努力の結果ですが、薬剤の効果もあったかもしれませんねと、後で答え合わせをするようにしています。
益崎 UACRの意義、そして何より長期的な目線で治療を継続することの意義をエビデンスを踏まえて医師も理解し、患者さんに知っていただく必要があると思います。
ケレンディアへの期待
Key point
- 2型糖尿病合併CKD治療においてケレンディアが果たす役割を糖尿病領域、腎臓領域、循環器領域の知見と経験を融合させながら確立していくことが期待される
益崎 最後にケレンディアの処方経験が豊富なお二人の先生からメッセージをお願いします。
瀧端 心臓と腎臓はどちらかが悪くなるともう一方も引っ張られて悪くなるという心腎連関がありますので13)、循環器領域と腎臓領域からの知見とわれわれ糖尿病領域の知見を融合させながら、ケレンディアをより早期から適正に使っていきたいと思います。
飯島 糖尿病領域、腎臓領域、循環器領域におけるケレンディア処方経験を蓄積していくことで新しい治療指針を患者さんに提示できるようになると思います。2型糖尿病合併CKD治療においてケレンディアがこれから果たしていく役割に期待したいと思います。
益崎 明日からの診療にすぐ役立てていただける患者さんとのコミュニケーションのポイントや実例をエキスパートのお二人からお聞かせいただくことができ、大変有意義なディスカッションとなりました。ありがとうございました。
参考文献
- 1)
- Wada T, et al. Clin Exp Nephrol. 2014 ; 18 : 613-20.
- 2)
- Ohta M, et al. Diabet Med. 2010 ; 27 : 1017-23.
- 3)
- Wu B, et al. BMJ Open Diabetes Res Care. 2016 ; 4 : e000154.
- 4)
- Afkarian M, et al. J Am Soc Nephrol. 2013 ; 24 : 302-8.
- 5)
- Ninomiya T, et al. J Am Soc Nephrol. 2009 ; 20 : 1813-21.
- 6)
- Alicic Z, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2017 ; 12 : 2032-45.
- 7)
- Mora-Fernández C, et al. J Physiol. 2014 ; 592 : 3997-4012.
- 8)
- Bauersachs J, et al. Hypertension. 2015 ; 65 : 257-63.
[COI : 本レビューはバイエルの資金により編集された。著者にバイエルより研究助成金等を受領している者が含まれる。]
- 9)
- 承認時評価資料. バイエル社内資料[糖尿病性腎臓病患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(試験16244)]
(Bakris GL, et al. N Engl J Med. 2020 ; 383 : 2219-29.)
[COI : 本研究はバイエルの資金により行われた。著者にバイエルよりコンサルティング料等を受領している者が含まれる。]
- 10)
- 承認時評価資料. バイエル社内資料[糖尿病性腎臓病患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(試験17530)]
(Pitt B, et al. N Engl J Med. 2021 ; 385 : 2252-63.)
[COI : 本研究はバイエルの資金により行われた。]
- 11)
- 糖尿病性腎症合同委員会. 糖尿病性腎症病期分類の改訂について. 2013.
- 12)
- 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. 東京医学社, 2018.
- 13)
- Ronco C, et al. J Am Coll Cadiol. 2008 ; 52 : 1527-39.