座談会
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の早期診断・早期治療介入の意義
※本剤の効能又は効果は「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。」
2型糖尿病合併CKD治療のUp-To-Date
Key point
- ケレンディアは、異なるCKDステージの集団を対象に、腎・心血管イベントを主要評価項目とした2つの臨床試験でそれぞれ優越性が証明されたミネラルコルチコイド受容体拮抗薬である
- Final common pathwayを構成する炎症・線維化にフォーカスした治療がCKDの標準治療として期待される
腎保護効果の証明
横尾 2型糖尿病合併CKDの治療薬に話題を移したいと思います。最初にCKD治療薬に求められる腎保護効果についてご解説をお願いします。
柏原 薬剤の腎保護効果を証明した2つのランドマーク試験として、2001年に論文発表されたIDNT試験8)とRENAAL試験9)が挙げられます。いずれの試験においても主要評価項目である腎複合エンドポイント(血清クレアチニン倍化、末期腎不全への進行、全死亡)を達成し、腎臓病の進展抑制、いわゆる腎保護効果が示されました。これらの試験を契機として腎保護効果が定義づけられ、少なくとも日本で薬事承認を得るためには、主要評価項目に腎特異的なハードエンドポイント(血清クレアチニン倍化、末期腎不全や腎代替療法導入、全死亡など)を設定したRCTにおいて優越性を証明すること、さらに国際共同試験の場合にはその中に日本人が一定数存在することが必要であると考えられるようになりました10)(表1)。その後も腎エンドポイントを設定した複数のRCTが実施されましたが、長らく腎保護効果を証明できた薬剤は現れませんでした。最近になって、約20年ぶりにSGLT2阻害薬11)12)とミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬13)14)が腎ハードエンドポイントを達成し、新たなCKD治療薬として登場しました。しかし、同じ薬効に分類される薬剤でも腎保護効果を示すことができたのは一部の薬剤に限られています。
【表1】

腎領域における慢性疾患に関する臨床評価ガイドラインの策定に関する研究班. 日腎会誌. 2018 ; 60 : 67-100. より作成
[COI : 著者にバイエルより奨学(奨励)寄附金等を受領している者が含まれる。]
ケレンディアの開発経緯とエビデンス
横尾 ケレンディアは「腎保護効果」の証明に必要と考えられる腎ハードエンドポイントを検証した唯一のMR拮抗薬です。どのように創薬されたのでしょうか。
柏原 ケレンディアはMR拮抗作用を指標としたハイスループット・スクリーニングにより発見されたリード化合物から創薬されました15)。われわれにとって使い慣れたジヒドロピリジン系カルシウム(Ca)拮抗薬と共通する骨格を持つ興味深い薬剤ですが、ケレンディア自体はCa拮抗作用は有していません。構造的な特徴として、従来のMR拮抗薬はステロイド骨格を有しているのに対し、ケレンディアはジヒドロピリジン系骨格、つまり非ステロイド型の化合物であるという特徴があります16)。
横尾 臨床試験ではどのような結果が示されたのかご紹介いただけますか。
柏原 FIGARO-DKD試験13)とFIDELIO-DKD試験14)という2つの国際共同第Ⅲ相試験が実施されました。2型糖尿病合併CKDではCKDステージによって心血管イベントと腎イベントの発現リスクが異なりますので17)、比較的早期のCKDステージの患者を対象としたFIGARO-DKD試験と比較的進行したCKDステージの患者を対象としたFIDELIO-DKD試験が実施されました。FIGARO-DKD試験では心血管複合エンドポイント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院)が主要評価項目に設定され、FIDELIO-DKD試験では腎複合エンドポイント(腎不全の発症、4週間以上持続するベースライン時点から40%以上の持続的なeGFR低下、腎臓死)が主要評価項目に設定されました(図3)。CKDの早期において最も急務である心血管イベントを抑制する効果、そして進行した段階における腎イベントを抑制する効果を検証するという、よく考えられたデザインで2つの臨床試験が実施され、ケレンディアは「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く」の効能又は効果で承認を得ました。2型糖尿病患者が65歳以上の高齢者の場合、半数以上はeGFR 60mL/min/1.73m2未満であるとの報告もあり18)、ケレンディアの対象となる2型糖尿病合併CKDは日常診療において身近な病態であるといえるでしょう。
【図3】

2型糖尿病合併CKDの進行とfinal common pathwayにおけるケレンディアの意義
横尾 ケレンディアの作用機序については私から紹介させていただきます。柏原先生のご指摘の通り、CKDの病態はある一定の段階を過ぎると不可逆性であり、糖尿病、高血圧、腎炎などの原疾患の違いにかかわらず、final common pathwayとなる共通の過程を経て腎不全に至ります19)(図4)。CKDにおけるfinal common pathwayの主な構成要因として挙げられているのが、虚血と炎症に伴って生じる尿細管・間質障害、すなわち間質の線維化です19)20)(図4)。CKDにおいては、患者一人一人の原疾患に合わせた個別化治療とともに、CKDに共通したfinal common pathwayを遅らせる薬剤による標準治療が今後必要になってくると思います。
2型糖尿病合併CKDの三大進行要因として血行動態異常、代謝異常、そして炎症・線維化21)22)が知られており、この炎症・線維化にはMRの過剰活性化が関与しています23)。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進による血中アルドステロン濃度の上昇、MRの過剰発現や安定化、MR感受性の亢進、そしてアルドステロン非依存性のRac1(Ras-related C3 botulinum toxin substrate 1)活性化を介したMRの核内移行促進などによってMRが過剰に活性化すると、炎症・線維化が進むとされています 24)-26)。血行動態や代謝の異常ではなく、final common pathwayを構成する炎症・線維化に介入できる治療は、CKD治療の標準治療薬として期待することができます。そこで、MR拮抗薬であるケレンディアは、炎症・線維化などを引き起こすMRの過剰活性化を抑制することから、理に適った薬剤であると考えられます。
【図4】

横尾隆先生ご提供