慢性腎臓病

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腎臓病の克服を目指して
~日本腎臓病協会の取り組み~

柏原 直樹 先生

NPO法人 日本腎臓病協会 理事長
一般社団法人 日本腎臓学会 理事長
川崎医科大学 副学長
腎臓・高血圧内科学 主任教授

柏原 直樹 先生

人をつなぐ医療をつむぐ

 2018年7月にまとめられた「腎疾患対策検討会」の報告書では、全体目標として「自覚症状に乏しい慢性腎臓病(CKD)を早期に発見・診断し、良質で適切な治療を早期から実施・継続することにより、CKD重症化予防を徹底するとともに、CKD患者(透析患者及び腎移植患者を含む)のQOLの維持向上を図る」ことが掲げられ、2028年までに年間新規透析導入患者数を3万5,000人以下に減少させるというKPIが示されました。どのようにして、この目標を達成していくべきなのでしょうか。
 そこで今回は、同検討会の座長を務められたNPO法人日本腎臓病協会理事長の柏原直樹先生に、CKD対策における現状と課題、日本腎臓病協会の活動、今後の展望などについてお話をうかがいました。

CKD対策が寝たきり予防につながる
日本腎臓病協会が取り組む4つの事業

― 国内におけるCKD(対策)の現状と課題についてお聞かせください。
柏原先生 慢性透析患者数と有病率の推移をみると、過去20年間でいずれも約2倍に増えました。45,000人が新規に透析を導入していて、慢性透析患者数は現在約34万人に達しています。日本の血液透析、腹膜透析のレベルは世界最高水準ですが、患者さんは不便を強いられています。医療費へのインパクトも大きく、1人当たり月40万円、トータルで1兆5,000億円の医療費が人工透析に投じられてます。
 一方、腎臓病は透析に至るだけではなく、軽度な段階から心筋梗塞や脳卒中を引き起こすリスクがあることがわかっています。このような背景から十数年前にCKD(慢性腎臓病)という概念が生まれました。CKDは病名ではなく、状態を示す名称であり、GFR が60mL/分/1.73m2未満もしくは、蛋白尿が出ている腎臓の状態を指します。心不全、脳卒中だけではなく、最近は認知症のリスクも高まることが指摘されています。現在、国内のCKD患者数は約1,300万に上り、他国においても人口の12%程度がCKD患者であると言われています。
 心不全や認知症が増えているのは高齢化が主な要因ですが、透析導入患者の原疾患として「腎硬化症」の割合が増えていることも高齢化に起因しています。治療(薬)の進化により糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎の割合は減少していますが、腎硬化症の割合が2番目に多くなったことに危機感を抱いています。国は健康寿命の延伸を目標に掲げていますが、平均寿命と比べると女性で12.49年、男性で9.02年と、10年前後の開きがあります。人生の終盤で健康な状態を失って、大きな障害を抱えながら生きていかなければならないのは非常に辛いことです。高度成長期に日本を支えたモーレツサラリーマンのように、太く短い人生を目指す人ほど、健康寿命と実際の寿命とのギャップが大きくなってしまうかもしれません。
 介護が必要になった原因に挙げられている脳卒中、認知症、骨折、心不全―このすべてがCKDに関係しています。つまりCKD 対策の充実を図ることは、寝たきりを予防することにつながるのです。日本腎臓病協会は、腎臓病を克服し、次世代への負荷を軽減したい、持続可能な堅牢な社会の構築に貢献したいという目標を掲げています。これから生まれる子どもたちに、「日本に生まれてよかった」と思ってもらえるような社会をつくらなければなりません。そういう意味でも腎臓病対策は非常に重要だと認識しています。

図1 日本の平均寿命と健康寿命

図1  日本の平均寿命と健康寿命

出典:平成27年版高齢社会白書

― 2006年から始められた日本慢性腎臓病対策協議会(J-CKDI)の活動と「日本腎臓病協会」の位置づけ、役割分担について教えてください。
柏原先生 25〜30年前までは腎臓病は人工透析にならなければ心配ないというのが常識でした。しかし20年前に、腎臓病は心筋梗塞や脳卒中を引き起こしやすいという指摘が循環器内科医からありました。日常的に循環器疾患を診ている中で、腎臓病との関連について気づいたのでしょう。そして、米国の循環器内科から発信されたCKDという概念を国内に普及・啓発するために設立されたのが、J-CKDI・日本慢性腎臓病対策協議会です。全国規模の講演会の開催やメディアへの露出など、さまざまな取り組みを行いました。その後、NPO 法人として協会をつくり“日本腎臓病協会が取り組む4つの事業”のひとつとしてJ-CKDIの活動を位置づけ現在に至っています。
 残り3つの事業は、<CKDE・「腎臓病療養指導士」の育成、腎臓病対策の立案、研究、医薬品・医療機器・診断薬開発>、< KRI-J・政策立案に関わる方々が一同に会するプラットフォームであるKidney Research Initiative-Japan(KRI-J)の構築>、そして<患者会・関連団体との連携>となっています。
 CKD の普及啓発については全国を12のブロックに分け、ブロック代表に加えて各都道府県には都道府県代表を選任しました。この方々には診療連携(かかりつけ医・専門医・他職種)、行政との連携体制の構築、各地に医師会、行政と連携可能な核(司令塔)を構築することなどについてコミットしてもらいました。
 腎臓病は症状が出にくい疾患のため、患者さんも医療従事者も軽視しがちですが、症状が出た時は手遅れになりかねないため早期発見が重要です。その方法は極めて簡単で、血液を少し採り、検尿するだけです。特定健診の項目にも盛り込まれています。腎臓病は治らない病気という印象を持たれていますが、早期であれば必ず元に戻りますので、検尿や血液検査の結果を軽視しないでいただきたいと常々思っています。このようなメッセージを地下鉄丸の内線の車内動画や、タクシーのデジタルサイネージに流したり、また図書館では関連書籍を目立つように掲示してもらうなど、ありとあらゆる手法を用いてCKDに関する普及啓発を行っています。このような取り組みは各地域の代表が責任を持って進めています。
 KRI-Jでは厚生労働省やPMDA との意見交換を重ねています。例えば、PMDA との話し合いの中で腎臓病の治療薬の開発エンドポイントのハードルが高すぎるため、GFRの数値や尿蛋白を測って有意差があれば承認していただけないかということを提案しています。基準が厳しすぎると治験におけるジャパンパッシングが起きかねないため、海外の企業に対して日本は治験が行いやすい国であることをKRI-Jというプラットフォームを通じて伝えていきたいと思っています。実際にいくつかの企業からは腎臓病をターゲットとした薬剤の治験の相談を受けています。企業側からすると、当該疾患を診ている医師がどこに何人いるのか分かりませんが、KRIーJはこういった情報を把握していますので、適切な研究者を紹介可能となります。このような支援により、治験を加速させるきっかけづくりができればと考えています。もちろん、国内企業との包括協定なども進めています。
 腎臓病療養指導士は看護師、管理栄養士、薬剤師のいずれかに就き、かつ腎臓病における療養指導を学んだ方です。医師による指導には具体性がないので行動変容につながりませんが、腎臓病療養指導士はオーダーメイドの指導をすることができます。つまり、医師がカバーできない領域を担うのが腎臓病療養指導士です。受講者には女性が多く、彼女たちの向学心には頭が下がります。ほぼすべて自費で学んでいただいているにもかかわらず、3年間で約1,700人の腎臓病療養指導士が誕生しました。受験資格である3職種の他に、臨床工学士も入れて欲しいという声も届いていて、できる限り幅広い職種に門戸を広げたいと思っています。
 腎臓病療養指導士に、薬剤師の割合が少ないという指摘があります。大学病院や基幹病院のように、腎臓内科があり腎臓の専門家がいる病院の薬剤師であれば取得するモチベーションが沸くでしょうが、そうでない病院に勤務する薬剤師にとっては頼りになる専門家が身近にいないので取得は難しいと考えてしまうからではないでしょうか。そのような地域であっても腎臓病療養指導士を目指せるよう、e-learning で学んだり体験ができる資材の開発も進めています。薬剤師や管理栄養士の方にも積極的に取得して欲しいと思います。

図2 介護が必要になった原因

図2 介護が必要になった原因

出典:厚生労働省「平成25年 国民生活基礎調査」
第14表 要介護度別にみた介護が必要となった主な原因の構成割合 平成25年より

図3 日本腎臓病協会(JKA)が取り組む4つの事業

図3 日本腎臓病協会(JKA)が取り組む4つの事業

腎疾患対策検討会報告書に込められた思い
かかりつけ医に期待する検査と管理項目

― 2017年から座長をつとめられた「腎疾患対策検討会」では、年間新規透析導入患者数3万5,000人以下というKPIが示されました。詳しくお聞かせください。
柏原先生 各学会等のリーダーが集まり、今後10年間の腎臓病対策を決めることを目的に議論を重ね、報告書としてまとめました。KPI として、新規透析導入患者数を10年間で10% 減らすことを掲げました。同時にCKD 患者のQOL の維持向上を図ることも目標とし、これらは政府の「骨太の方針2020」にも盛り込まれました。高齢化が続く中、10年間で10%減らすことはそう簡単ではないため、水際対策、普及啓発活動がなにより重要になります。CKD になってしまうと適切な治療が求められますが、幸いにも腎臓病をターゲットにした治療薬が続々と登場してきています。
― 腎疾患対策検討会の報告書の中では自治体の重要性が指摘されています。どのような役割を自治体に期待されていますか。
柏原先生 糖尿病性腎症の重症化予防プログラムは自治体が主導しています。未受診の患者さんを含め早期に診断して医療につなげる存在として、自治体の関与は不可欠です。現状は新型コロナウイルス感染症への対応に加えて、がんを含めた疾患の対策も自治体が手掛けなければなりません。その中で糖尿病性腎症だけではなく、CKD、腎臓病全体も大事であることを訴える続ける必要があります。データヘルス計画に相乗りする形でCKD対策にも取り組んでいただけるように働きかけていきます。
― 電車広告や動画などの啓発活動に加え、多職種による介入も患者さんの行動変容には重要かと思います。チーム医療や医療連携に関しては、どのようなツールを活用されていますか。
柏原先生 全国共通の連携パスはありませんが、「腎臓病療養指導士ガイド」が間もなく完成します。ガイドに掲載されている連携の成功事例などを参考に、地域の実情に合った連携システムを構築していただきたいと思います。ある地域では、腎臓病に詳しいかかりつけ医が中心となり、そこに腎臓病療養指導士や看護師が加わっています。それぞれの地域で独自のコミュニティをつくり上げて欲しいですね。連携ネットワークはこれまでトップダウンで進めてきたイメージですが、今後は地域の事情に精通した人たちがボトムアップで連携していけることを望んでいます。成功事例は熊本市や呉市をはじめ、各地で少しずつ広がっています。ちなみに熊本市の例では、2009年から2016年までの間で新規透析導入患者が295人から243人に減り、約18%の減少を達成しています。
 良いアウトカムを出すには、腎臓病の専門医に加えて、地域の医師会、看護師、管理栄養士、薬剤師などの多職種がコミュニケーションを交わす場をつくることが何よりも重要です。
― 糖尿病透析予防指導管理料など、透析予防に関する診療報酬項目はありますが、今後、経済的な評価を希望する項目はありますでしょうか。
柏原先生 腎臓病療養指導士による指導に対して経済的インセンティブをつけていただきたいと思っています。すでに指導士になった人や勉強中の人のほとんどは、ボランティア精神で資格を取得しています。もし、診療報酬で評価されれば、医療機関としても資格取得を後押しするようになるでしょう。療養指導を行ったら最終的に透析患者がどれくらい減少するのか、QOLがどれくらい改善するのかなどのエビデンスをまとめて、2024年度の診療報酬改定に間に合うように準備を進めています。
― 先ほど、地域の医師会の話もありましたが、かかりつけ医の先生方の役割は非常に大きいと思われます。どのような期待をお持ちでしょうか。
柏原先生 腎臓病は特殊な病気と思われがちですが、かなりの部分は生活習慣病に関連しています。肥満や喫煙も腎臓疾患の一因ですし、血圧管理も大切です。専門医とかかりつけ医が2人主治医制で腎臓病をマネジメントしていくことが求められます。
 かかりつけ医の先生には検尿所見を大切にして欲しいと思っています。腎臓は血管の塊ですから蛋白尿が出るということは状態の悪さを表しているということになります。かかりつけ医の先生から「最近、ちょっと腎臓が悪い患者さんがいるので診て欲しい」と相談を
受けて検査を行ったところ、クレアチニン値が2.0でした。腎臓が40%しか機能していない非常に悪い状態だったのです。また、かかりつけ医の先生の中には、腎臓病が見つかっても治療法がないと考えている方がいますが、最近では新たな治療法が生まれています。慢性糸球体腎炎には扁桃腺摘出術とステロイドパルス療法を実施すると良くなりますし、完治することもあります。専門医に適切なタイミングでご紹介いただければ、治せることもあるのです。
― かかりつけ医の先生から専門医に紹介する基準について教えてください。
柏原先生 血尿と蛋白尿の判定が陽性であること。そしてeGFRが45mL/分/1.73m2未満であることです。45未満になると将来腎不全になるリスクも高まります。この3つの条件に合致する場合は、ぜひ専門医に紹介してください。以後は2人主治医制で診ていくことになります。
 それと、尿中微量アルブミンは絶対にチェックしなければならない検査であることを認識していただきたいと思っています。糖尿病性腎症の最初の兆候が微量アルブミン尿ですので、微量アルブミン尿が出始めた頃に介入し、血糖値と体重を管理して適切な運動をすれば必ず改善します。そのチャンスを見逃さないために行うのが、尿中微量アルブミン検査です。微量アルブミンとはいうものの、その重要性は「微量」ではありません。糖尿病性腎症は決して難しい病気ではありません。100% 予防できて、100% 重症化を予防できます。しかし、これほど大切な検査であるにもかかわらず、全国の糖尿病患者のうち3割程度しか受けていないのが現状です。早期発見のために尿中微量アルブミンの価値が見直されるべきだと思います。
 さらに貧血の管理も大事です。1980年代にエリスロポエチン製剤(ESA)が誕生して患者さんのQOL が激的に改善しました。国内においても1990年代半ばまでは使用が急速に伸びました。しかし高用量にすると脳卒中や心筋梗塞が増えるという大規模臨床研究の結果が立て続けに発表されたことで、警戒感から使用量が減少しました。さらに、注射製剤だったため、かかりつけ医には扱いづらい印象がありました。そんな中で登場したのが、HIF-PH阻害薬です。こちらは経口薬ですから、かかりつけ医の先生方が血圧管理や血糖管理と同様に、貧血の管理も実施しやすい環境になったと感じています。
― 腎臓病はさまざまな疾患に影響するというご指摘がありましたが、他の学会とのコラボレーションは進んでいるのでしょうか。
柏原先生 はい、何年も前から進めています。特に日本糖尿病学会とは5年くらい前から理事長を含む複数の理事同士のリーダーシップミーティングを実施していますし、AMED の研究費に一緒に応募するなどのコラボレーションが進んでいます。日本医療情報学会や日本透析医学会とも同様の関係性を築いています。
― 今後の目標や取り組みたいことについてお聞かせください。
柏原先生 「腎臓病の克服」という言葉を至るところで使っていますが、腎臓の病気のことが100% わかって、画期的な新薬が登場するのを待っているだけでは何十年経っても実現することは無理だと思います。今できることに最大限取り組んで、患者さんに寄り添おうとしている集団がいるというメッセージを出し続けたいと思います。人工透析になってしまった患者さんは社会から隔絶されるケースも多く、抱えている孤独感は想像を絶するものがあります。腎臓病に限らず病気に罹ることは自己責任とはいえず、不条理なことだと私は思います。その上、治療の地域格差もあります。日本全国どこにいても良質な腎臓病の医療が受けられる環境を整備することが今後の目標です。

取材日:2021年7月13日
記事作成日:2021年8月

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