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糖尿病診療の未来を拓くカードシステム
~糖尿病カードシステムと茨城県のモデル事業

遅野井 健 先生

那珂記念クリニック 院長
遅野井 健 先生

道口 佐多子 先生

那珂記念クリニック 副院長
道口 佐多子 先生

人をつなぐ 医療をつむぐ

 糖尿病は、患者の無自覚や治療の自己中止などにより、病状が進むケースが少なくありません。そのため、治療に際しては自己管理行動へ結び付ける療養指導が重要になります。一方で、施設ごとの指導スキルの差や指導内容の個別化に伴う複雑さから、均質で系統的な指導は難しい側面があります。
 そこで注目されているのが、療養指導ツールとして普及しつつある「糖尿病カードシステム」(以下、カードシステム)です。本システムを開発した那珂記念クリニック院長の遅野井健先生と副院長の道口佐多子先生に、その特徴や有用性、実際の運用法、重症化予防への活用について解説していただきました。さらに、茨城県の「糖尿病カードシステムを活用した重症化予防事業」の紹介を踏まえ、カードシステムがもたらす療養指導の展望を伺いました。

療養指導だけでなく、
指導者の育成にも資するカードシステム

― カードシステムの開発背景と特徴について教えてください
遅野井先生 糖尿病診療には専門性の高い医療が必要ですが、症状の進行が遅いため中核病院では受け入れられにくく、今も昔も患者さんの行き場は不足しています。そのような患者さんに中核病院と同等以上の質の診療を提供したいと考え、25年前に当院を設立しました。
 開院当初、療養指導者が3人の体制に対し、1,000人を超える患者さんが来院しました。新規の看護師を採用しましたが、すぐに療養指導ができるわけではないので、まずは指導の一部を担ってもらうことにしました。
 治療に必要な指導内容は少なくないですが、1回の受診で患者さんに教えられる内容は限られます。道口先生は、自身の経験や教科書を基に指導内容を約100の項目に細分化し、その中から選んで患者さんに教えられるようにしました。一方で、細分化に伴い何を指導したかの管理が必要となりましたので、指導と管理を同時にできるようカード形式にしました(図1)。
 療養指導の完全個別化には高度な知識が必要ですが、カードシステムではスタッフが自分の教えられる内容を選んで指導できます。カードの裏には指導内容が書かれているので、不慣れなスタッフでも少し学べば指導が可能です。さらに、指導を繰り返すことで徐々に教えられる内容が広がるので、指導できる人材が増えます。つまり、カードシステムは指導者の育成にも有用なツールなのです。

図1 糖尿病カードシステムの概要

糖尿病カードシステムの概要

(遅野井先生、道口先生提供)

― 患者さんにとって、カードシステムはどのようなメリットがありますか
遅野井先生 頻回の指導になりますが、1回の時間を短くできます。診察前の15~20分の待ち時間を利用して指導するので、患者さんは受診の都度、何かしらの情報を得ることができます。
道口先生 カードシステムを用いた細かな指導により、患者さんは理解を深めることができます。細かな指導を煩わしいと感じる患者さんもいるかもしれませんが、最終的には正しい情報と理解が必要だと考えます。また、カードシステムを用いた頻回の指導は、患者さんとスタッフの信頼関係を確立する点においても有用です。
― 日本糖尿病協会の指導ツールとしてのカードシステムの現状について教えてください
遅野井先生 日本糖尿病協会のポリシーの1つは、医療従事者のスキルアップを図り、全国どこでも同水準の診療体制を整備することです。その実現のため、糖尿病診療の水準を均霑化する指導ツールとして当院のカードシステムが採用され、全国への普及が進められています。
 予想外の効用として、カードシステムは療養指導者のスキルアップツールとしても活用され始めました。カードシステムでは、カードに対応したリーフレットを用いて患者さんを指導します。その際には、書き込みながらの説明などのコミュニケーションスキルが必要となります。同じ指導内容でも伝え方に違いが出るわけです。そこで、現在はカードシステムを軸にして、指導者のコミュニケーションスキルの向上を目的とした研修会が行われ、療養指導全体のスキルを底上げする方針が取られています。
道口先生 患者さんとのやりとりの難しさを考慮し、当院のカードシステム研修会も2022年からコミュニケーションスキルを習得する形に変更しました。その結果、カードシステムへの理解が深まったと感じています。

職種の区別なくスタッフ全員による介入体制

― 実際の介入におけるカードシステムの運用法について教えてください
遅野井先生 糖尿病診療では、患者さんの自ら治療に参加する前向きな姿勢をリードして治療を行います。「患者の治療参加」という前提は、スタッフがカードシステムを用いて引き出します。また、医師の診療時間は限られますので、介入後の患者さんの行動や気持ちの変化の把握はスタッフに依頼します。その際にはカードを介して患者さんの情報をスタッフと共有しますし、カンファランスにおける指導内容の確認にも欠かせません。
道口先生 当院では職種の区別なく、スタッフ全員が介入しています。日本糖尿病療養指導士(CDEJ)として看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師が在籍していますが、職種により指導内容を限定していません。薬剤師が食事の話をする場合や管理栄養士が薬の話をする場合もあります。
 介入については、基本的に全ての新患に対し初診時から始めます。初診時には必要なカードが入ったファイルを作成し、以降は来院時に毎回指導し、約1年をかけて全てのカードを終了します。
― 糖尿病透析予防指導管理料は、療養指導においてどのような意義があると考えますか
遅野井先生 当院では算定していませんが、200床以上の中核病院などでは算定に収益的なメリットがあります。結果として、中核病院における療養指導の位置付けを高めることになるので、算定には大きな意義があると考えます。
道口井先生 これまで算定がなかったことから、いまだ中核病院の療養指導に対する関心は低く、スタッフが糖尿病看護認定看護師やCDEJ を取得しても活かされていません。そのような中、糖尿病透析予防指導管理料や重症化予防(フットケア)に点数が付いたことは画期的で、大規模施設が療養指導を始める働きかけとして重要だと思います。
― 血糖管理や治療の継続状況について教えてください
遅野井先生 HbA1c については、2型糖尿病患者さんの平均は7%を下回る程度、1型糖尿病患者さんの平均は少し高めで8%を超えている状況です。
道口先生 当院では1型糖尿病患者さんにおける低血糖の頻度が極めて少なく、低血糖による救急搬送もほとんどありません。低血糖を来す限界を基準としたインスリンの増量や食事療法を行っていないので、HbA1c は若干高めですが血糖の変動幅は小さく維持できています。また、治療の中断率は1割強と低く、40年以上診療している患者さんもいるなど、多くのケースで長期にわたり治療が継続できています。

重症化予防の要は患者自身の現状認識

― 重症化予防として、特に合併症予防の検査におけるポイントを教えてください
遅野井先生 糖尿病の重症化として、まず典型的なのが眼、腎臓、神経系の合併症になります。これらのうち1つでも発見した場合は他にもあると考え、全てをスクリーニングすることが重要です。例えば、網膜症を発見したら、腎症と神経症も検査する必要があります。
 次に問題となるのが、血管障害です。糖尿病では多様な要因により動脈硬化が生じますが、心血管系イベントとして発見される場合が少なくありません。また、イベントがないからといって動脈硬化がないわけではないので、常に動脈硬化性疾患への疑いを持って診療することが重要です。当院では足関節/ 上腕血圧比(ABI)、脈波伝播速度(PWV)検査や頸動脈エコー検査でチェックしていますが、検査が行えない施設でも脳ドックの受診を勧めるなど、別の形で補完する必要があります。
― 重症化予防に向けた患者さんの意識改革には、どのような取り組みをしていますか
遅野井先生 糖尿病というと、患者さんは尿と糖を強く結び付けてイメージしやすく、尿に糖が出なくなれば改善する、血糖値が下がればいいという発想を抱きがちです。それに対して、治療の目標は尿や血糖の数値の改善ではなく、血管障害に伴う臓器障害の予防であることを意識してもらう必要があります。そのため、動脈硬化の程度や頸動脈内膜中膜複合体厚(IMT)などのデータを示して頻繁に啓発し、患者さんの現状認識を高めています。
道口先生 意識改革においては、さまざまな点から可視化が重要です。例えば、単純糖尿病網膜症の場合、眼科医は病状に変化がなければ「(前と)変わりないです」と説明しますが、患者さんは「変わりなし」と「異常なし」の区別ができないことが多くあります。そこで、眼底写真を見せたり、リーフレットに書き込みをして渡すことで、正しく自身の現状認識ができるようにしています。
 特に腎症については、患者さんは「だいぶ前から腎臓が悪いと指摘されていた」と言いますが、実際にどの程度悪いかの自覚はありません。その説明の際にも、リーフレットに推算糸球体濾過量(eGFR)と対応する病期に印を付けながら現状を伝えています(図2)。

図2 指導用リーフレット(糖尿病腎症の診断と治療)

指導用リーフレット(糖尿病腎症の診断と治療)

(公益社団法人日本糖尿病協会:「糖尿病カードシステム」リーフレット)

― 重症化時の対応について教えてください
遅野井先生 合併症を伴う重症化例に対しては薬物療法がありますが、一般的にステージG3、G4の場合に用いられます。しかし、重症化予防の入り口はステージG2になりますので、患者数が多いことからも、この段階での薬物療法も検討するべきです。特に療養指導を受け、血糖値は改善しているものの、依然として微量アルブミン尿が出ているステージG2の患者さんには薬物療法が必要と考えます。
― 重症化時の地域連携体制について教えてください
遅野井先生 現在、地域連携については、他施設で状態が悪化した患者さんが当院へ紹介されてくるという関係のため、お互いの治療内容が見えない状況です。しかし、カードシステムを用いることで、施設間での過去の指導範囲や治療内容、アドバイスなどの情報交換が可能になります。そうすれば、送り出す施設も安心できますし、私たちも状態が改善すれば、必要な情報とともに紹介元へ患者さんを戻せます。カードシステムの普及を通じ、地域連携体制を確立したいと考えています。

茨城県のモデル事業「糖尿病カード
システムを活用した重症化予防事業」

― カードシステムのモデル事業について教えてください
遅野井先生 本事業は、カードシステムを通じて地域連携体制を確立し、糖尿病の重症化予防を推進する茨城県の取り組みです。当院が糖尿病関連の別事業に協力した際、県の職員に当院のカードシステムを紹介したところ、事業での使用希望があり、2022年にモデル事業が始まりました。
 本事業ではカードシステムの研修会を実施しており、2023年は4月8日と15日に開催しました。参加施設数は10施設、各施設から複数の参加があり、参加者はそれぞれ16人と20人でした。対象職種は限定していませんが、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士の参加がありました。研修内容はロールプレイを中心に、講義などで構成された約3時間のプログラムになります(表)。
道口先生 今回のプログラムでは3回のロールプレイを行い、ファシリテーターが患者役となり、リーフレットを用いて患者さんとやりとりするスキルを実習しました。プログラムについては、まだ試行錯誤している段階です。地域や参加者によって変える必要があるので、研修会ごとに改善と工夫を図っていきたいと思います。

表)モデル事業のカードシステム研修会のプログラム

モデル事業のカードシステム研修会のプログラム

(遅野井先生、道口先生提供資料より改変)

― 最後にカードシステムがもたらす療養指導の展望をお願いします
遅野井先生 カードシステムを活用したモデル事業をきっかけに、糖尿病療養指導が全体的に底上げされてほしいと思います。個人の指導スキルを向上させるとともに、指導の地域連携が円滑に行える体制の確立を進めることで、療養指導のいっそうの普及と充実を望みます。
 また、カードシステムの普及先はクリニックや開業医などになります。茨城県の地域糖尿病療養指導士(CDEL)は医療機関の事務員が取得できるので、医療スタッフの少ない施設でも療養指導が行えるよう、最終的には事務員がカードシステムを使えるようにしたいと考えています。
道口先生 施設によって糖尿病診療の質が異なることは極めて問題です。カードシステムは、施設を問わず同水準の診療や指導が受けられる環境を整える最適な方法だと考えます。また、意欲のあるスタッフが療養指導に取り組めるように、療養指導への算定を増やしてほしいと思います。

取材日:2023年4月24日

記事作成日:2023年8月

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