糖尿病専門医が取り組む
糖尿病性腎症の早期発見と透析導入予防
取材日:2023年6月14日
三浦中央医院 院長
瀧端 正博 先生
日本糖尿病学会 専門医・指導医
日本内分泌学会 専門医・指導医
日本内科学会 専門医
糖尿病の三大合併症の1つである糖尿病性腎症は、近年の透析導入患者の原疾患としてもっとも多く、その割合は全体の約4割に上ります。
このような中、糖尿病専門医の瀧端正博先生が院長を務める三浦中央医院(神奈川県三浦市)では、院長とスタッフが一丸となって糖尿病の合併症管理に取り組み、糖尿病性腎症の早期発見と透析導入予防に尽力されています。
今回は、尿アルブミン定量測定の定期的な実施や糖尿病透析予防指導管理料の算定など、同院における糖尿病性腎症の重症化予防についてお話を伺いました。
高齢化率の高い地域で
糖尿病専門医としてハブの役割を目指す
また、高齢化率が41%を超えていることも大きな地域特性です。高齢者が多いということは、疾患の罹患歴が長い患者さんが多いということです。特に糖尿病の場合は、合併症が進行している患者さんが多くおられます。そのため、毎月の検査データの推移を睨みながら、どのような合併症があり、今後どのような合併症が発症する可能性が高いのかを見極め、その患者さんにとって、もっともメリットのある治療戦略をオーダーメイドで考えていかなければなりません。
三浦中央医院
内科・糖尿病内科・内分泌代謝内科
これだけ多くの糖尿病患者さんを診る中で、私が目指す当院の役割は、地域の“ハブ”となって基幹病院や他のクリニック、薬局、訪問看護ステーション、介護施設などをつなぎ、地域医療になくてはならない“インフラ”として機能することです。高齢の患者さんの治療では、合併症の進行だけではなく、通院が困難になった場合の対応も念頭に置いて治療戦略を考えておかなければなりません。そのため、当院では介護資源の情報はもちろん、地域のクリニックやどの病院のどの先生にお願いするかまで、状況に合わせた紹介の道筋を日頃から細かく構築しています。
たとえば、三浦市の基幹病院には腎臓専門医がいないため、糖尿病性腎症が進行して透析が近くなってしまった患者さんは、当院から横須賀市の基幹病院の腎臓専門医に紹介し、透析導入になると近隣の透析クリニックにお願いして内科の治療は引き続き当院が行うといった、3つの施設をつないだ診療のかたちができあがっています。しかし、ADLが低下して定期的に隣の市へ行くのも大変な高齢患者さんの場合は、当院で透析導入のぎりぎりまで腎症を診るケースも増えてきました。
腎症の早期発見には2つの検査が必要
検査結果は治療の理解を高めるツールに
このような糖尿病性腎症の早期診断には、eGFR測定と尿アルブミン定量測定の2つによる評価が必要です。尿蛋白定性検査ではなく尿アルブミン定量測定を行うのは、尿蛋白定性検査では尿の濃度・希釈状態が結果に影響するため、検査結果が(-)や(±)であっても微量アルブミン尿が認められる可能性があるからです。そのため、糖尿病性腎症の早期かつ正確な診断には、尿アルブミン定量測定が必須です(図1)。
診療報酬では、尿アルブミン定量測定は「糖尿病又は糖尿病性早期腎症患者であって微量アルブミン尿を疑うもの(糖尿病性腎症第1期又は第2期のものに限る。)に対して行った場合に、3月に1回に限り算定できる」とありますので、該当する患者さんには採血によるeGFR測定と合わせて定期的な尿アルブミン定量測定を行うべきと考えています。当院では、該当する糖尿病患者さん全員にeGFR測定、そして3ヵ月に1回の尿アルブミン定量測定を行っています。糖尿病患者さんであれば、“行うべき検査の1つ”という位置づけです。
図1 糖尿病における尿蛋白定性検査と尿アルブミン定量測定
(本誌編集部作成)
1)
日本腎臓学会・日本糖尿病学会 糖尿病性腎症合同委員会.日本腎臓学会・日本糖尿病学会 糖尿病性腎症合同委員会報告 糖尿病性腎症の新しい早期診断基準.日腎会誌2005;47 (7):767-769(https://jsn.or.jp/journal/document/47_7/767-769.pdf ・アクセス日:2024年4月10日)
2)
厚生労働省ホームページ. 「令和6年度診療報酬改定について」 第3 関係法令等.(2)-2 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)(令和6年3月5日保医発0305第4号)別添1「医科診療報酬点数表に関する事項」305-306頁 (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html ・アクセス日:2024年4月10日)
当院の診察室には3つのモニターがあり、その1つを主に患者さんへの検査結果の説明に使っています(図2)。検査結果は前月までの結果も含めて時系列で一覧表にし、まずモニター画面で患者さんに見ていただきます。
もっともこだわった点は、バイタル値なども表に組み込んだことです。一般的には血液検査の結果を一覧にした表などが多いと思いますが、当院では、糖尿病の治療に深く関わる血圧や体重はもちろん、脈拍や酸素飽和度などの数値も患者さんに知っていただきたいので、表の中に一元化し、患者さんに説明するようにしています。
また、検査データの一覧表は、患者さんが生活する中で必要に応じて見直せるように、血圧や体重を含めた主なデータの推移を毎回カラーでプリントアウトしてお渡ししています(図3)。基準値から外れている数値は目立つように赤くなっていて、さらに「ここがよくなっている、ここは注意が必要ですね」というように、私がわかりやすく印を書き込みます。もちろん最初のうちは検査項目や結果について丁寧に説明する必要がありますが、診療を重ねていくうちに、数値を見れば患者さん自身が状態の変化を把握して「ちゃんとできている」「少しさぼってしまった」と評価されるようになりますから、そうなれば、もう私から口酸っぱく言う必要はありません。
生活や食事の改善は患者さん本人が行うことなので、自分の状態を理解していることが必要です。時系列による検査結果の共有は、患者さんの病識を高め、行動変容につなげるための有効なツールなのです。
図2 診察室の3つのモニター
写真手前のモニターには、患者さんに見せるための検査結果の一覧表やエコー検査などの画像を表示している。写真奥の2つのモニターには、電子カルテや診療に必要なデータが多岐にわたって表示されていて、瀧端先生は患者さんの状態を把握しながら薬剤や検査のオーダーを行う。
図3 プリントアウトした検査結果一覧表と主な検査項目の抜粋(左図)及びeGFRの推移のグラフ(右図)
(左図)横軸は約半年以上前からの検査日、縦軸は検査項目。血圧、脈拍、体重を含めた検査結果を時系列で書き出し、値の推移がわかるようにA4に出力して患者さんに渡す。赤い枠は注意が必要な値を示す。「バイタルのデータは手入力。時系列で見る機会がないので、時間がかかるがこだわった工夫点だ」と瀧端先生。
(右図)eGFRのグラフは、主に瀧端先生が診療で活用している。2年以上にわたる1ヵ月ごとの推移が一目でわかる。
(瀧端先生ご提供資料より作成)
多職種を配置してタスクシフトを推進
透析予防指導は病識を高めるために有効
当院のスタッフ1人ひとりが、その領域のプロフェッショナルです。私は管理栄養士ほどの食事や栄養の知識はありませんから、適切な栄養指導には管理栄養士の力が必要です。また、処方した薬に投与の条件があったり、量の調整が必要な場合は薬剤師が検査データを見て確認してくれます。そして患者さんになぜこの薬が処方されているのか、腎臓の数値が悪い患者さんに対してはそのことも含めて適切な服薬指導を行ってくれるので、私はそこに多くの時間を割く必要はありません。エコー検査は臨床検査技師が、エックス線検査は診療放射線技師が行い、手が空いたスタッフは他の業務のサポートに入るなど、私の診療方針を把握して患者さんのために全員が動いてくれます。このような信頼できるスタッフがいなければ、たくさんの患者さんを抱える当院の診療は成り立ちません。
糖尿病透析予防指導を行う利点は、何よりもまず、チームが行う継続的な指導によって、糖尿病性腎症に対する病識を持って頂けることです。さらに、“服薬”と“生活・食事の見直し”は糖尿病や腎症の治療の両輪ですから、「薬さえ飲んでいれば大丈夫」と考えてしまわないように、改めて生活や食事の見直しが必要だと理解して頂く場としても有効です。
図4 糖尿病透析予防指導管理料の主な内容
(本誌編集部作成)
ですので、地域の先生方には、定期的なeGFR測定と尿アルブミン定量測定を行ってできるだけ早期に介入していただき、検査結果と治療の必要性を患者さんにわかりやすく伝えることをお願いしたいですね。食事については、まずは減塩の指導が重要です。悪化してきた段階で、できれば透析予防診療チームなどがいる医療機関に紹介いただければと思います。
当院としては、これからもスタッフとともに地域の糖尿病患者さんの人生を支える治療を行っていきます。患者さんがこの先歩んでいく道が合併症の発症によって崩れてしまわないように、5年、10年後まで先回りをして患者さんを守ることが、糖尿病を診る私たちの役割です。
記事作成日:2023年11月