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糖尿病性腎症の早期診断・治療と炎症管理の重要性
〜岡山県の重症化予防プログラムに学ぶ〜

四方 賢一 先生

岡山大学病院
新医療研究開発センター教授

四方 賢一 先生

人をつなぐ医療をつむぐ

 自覚症状が現れた時には既に症状が進行し、予防段階での対応が難しいといわれている糖尿病性腎症。20年以上にわたり透析療法導入原因第1位の疾患であり、重症化予防の取り組みはさらなる強化が求められています。では、重症化予防の要となる早期発見・早期治療を行う上で必要なことは何でしょうか。岡山大学病院新医療研究開発センター教授の四方賢一先生に、糖尿病性腎症の早期発見のポイントから近年注目されている炎症に着目した治療、そして医療連携に力を入れた岡山県独自の糖尿病性腎症重症化予防プログラムまで、幅広くお話しいただきました。

早期発見に必須:
アルブミン尿検査実施率向上を目指して

――糖尿病性腎症の患者さんを取り巻く現状について教えてください。
 2007年に報告された2型糖尿病患者さん約8,900例のアルブミン尿を調査したJDD M study(症例登録は2004〜2005年)の結果では、微量アルブミン尿と顕性アルブミン尿を合わせた陽性率は約42%でした1)。一方、2007年から2011年にJDCP studyに登録された日本人2型糖尿病患者さん約5,000例の調査結果では、アルブミン尿陽性率は約30%で、腎症の病期でも、2〜4期(早期腎症期〜腎不全期)の割合が約30%でした2)。2つの研究の背景が異なるため単純な比較はできませんが、日本の糖尿病患者さんにおけるアルブミン尿陽性率は最近低下しており、2型糖尿病患者さんの約30%が腎症を合併していると考えられます。
――早期発見のためには何を行えばよいのでしょうか。
 腎症の予後を改善するには、早期に診断することが重要ですが、そのためにはアルブミン尿の測定が必要です。アルブミン尿は腎機能低下だけでなく、心血管イベントや死亡リスクの上昇にも関連することが報告されています3)。JDDM studyにおいて、登録された症例を10年間観察した結果から、アルブミン尿が陽性の人は陰性の人に比べ死亡・心血管疾患のリスクが高く、腎不全に進行しやすいことが明らかになっています(図1)。
 糖尿病診療において腎症を早期に診断するために、3カ月〜1年に1度、定期的にアルブミン尿を測定することが推奨されますが、現状では検査の実施率が十分とはいえないようです。岡山県では、かかりつけ医の先生方を対象とした研修会などで積極的な検査実施を呼びかけています。National Database(NDB)のデータによりますと、年間のアルブミン定量(尿)算定回数は徐々に増加しており4)、引き続き活動を続けていく予定です。
――アルブミン尿検査の実施率を上げて、さらにその後早期治療に繋げていくためには、どのような対策が必要だとお考えですか。
 医療者と患者さんの両方に検査の重要性を理解してもらうことが大切だと思います。医療者に向けては、腎機能低下や心血管疾患のリスクを知るためにアルブミン尿検査が有用であることをさらに周知する必要があります。患者さんに対してはまず、アルブミン尿とは何かを理解してもらわなければなりませんが、そのためには医療者から患者さんに十分説明をし理解していただく必要があります。日々の診療でご多忙な先生方のために、私たちはイラストで分かりやすく説明した患者さん向けパンフレットを作成し配布しています。まずは腎症の指標であるアルブミン尿について理解してもらい、早期に治療を開始する重要性を知ってもらうことが必要だと思います。

図1 2型糖尿病患者におけるアルブミン尿の死亡・心血管疾患、腎不全に対するリスク

2型糖尿病患者におけるアルブミン尿の死亡・心血管疾患、腎不全に対するリスク

Reprinted with permission from Yokoyama H, Araki S, Kawai K, et al: The Prognosis of patients with type 2 diabetes and nonalbuminuric diabetic kidney disease is not always poor: Implication of the effects of coexisting macrovascular complications(JDDM 54), Diabetes Care 2020; 43:1102–1110(doi.org/10.2337/dc19-2049). Copyright 2020 by the American Diabetes Association.

新たな治療ターゲット、炎症を理解する

――最近では血糖・血圧管理だけでなく、炎症管理の重要性も指摘されるようになってきました。
 炎症がさまざまな病気の原因となることはよく知られています。心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす動脈硬化の成因に炎症が関与しているという仮説は、1990年代に提唱されましたが、現在では広く受け入れられています。一方、糖尿病性腎症の腎生検組織においても糸球体や間質の血管に細胞接着分子の発現とマクロファージの浸潤が認められるため、私たちは糖尿病性腎症にも炎症が関わっているのではないかと考え、研究を進めてきました。関節リウマチに見られるような典型的な炎症では発赤・腫脹・疼痛が特徴的ですが、糖尿病性腎症ではこれらの典型的な症候は見られません。しかし糖尿病性腎症では、血液中および尿中のサイトカインやケモカイン濃度の上昇、腎組織におけるICAM-1をはじめとする接着分子の発現、マクロファージの浸潤が認められ、軽度の慢性的な炎症が起きていると考えられます。
――炎症のメカニズムについて詳しく教えてください。
 糖尿病性腎症は、高血糖に高血圧や脂質代謝異常が加わって発症すると考えられます。さらに、終末糖化産物(Advanced glycation end-products;AGEs)の産生、レニン・アンジオテンシン系(RAS)の亢進、酸化ストレス、細胞内代謝異常などによって糸球体と間質の細胞が障害されて、糸球体硬化や間質の線維化が起こります。私たちは、これらのメカニズムに炎症が関与していると考えて研究を進めてきました(図2)。

図2 糖尿病性腎症の成因と治療ターゲット

糖尿病性腎症の成因と治療ターゲット

(四方先生ご提供)

 炎症は、血管内の白血球が血管外に遊走することによって惹起されますが、白血球の遊走に必要なメカニズムが2つあります。1つは接着分子の発現です。白血球が血管内皮細胞に接着するための分子で、「ICAM-1(Intercellular adhesion molecule-1;細胞接着分子1)」や「VCAM-1(Vascular cell adhesion molecule-1;血管細胞接着分子1)」がよく知られています。もう1つは、白血球を血管外へと遊走させる液性因子であるケモカインです。糖尿病性腎症の発症に関わるケモカインについては既にいくつかの報告がありましたので、私たちは接着分子に着目して研究を始めました。まず、糖尿病ラットを用いて腎臓に発現する接着分子を調べた結果、腎臓の糸球体と間質の血管にICAM-1の発現が亢進することが明らかになりました。次に、炎症が糖尿病性腎症の成因に関与しているか否かを明らかにするために、ICAM-1ノックアウト(KO)マウスと野生型マウスに糖尿病を誘発して、腎障害や炎症の程度を比較しました。その結果、野生型マウスと比較してICAM-1KOマウスではアルブミン尿の増加が抑制されていました。腎組織を比較すると、ICAM-1 KOマウスではマクロファージの浸潤が少なく、糸球体肥大や間質の線維化も抑制されていました5)。これらの結果から、腎症の発症と進展に炎症が重要な役割を果たしていることが強く示唆されました。
――糖尿病患者さんでも、炎症をうまくコントロールできれば、腎症の進行を抑えられる可能性があるということでしょうか。
 腎症の治療は、あくまで血糖・血圧・脂質の管理が基本であり、これに食事療法とアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をはじめとする薬物療法を加えます。これまでお話ししたように、腎症の成因には炎症が関わっており、動物実験では炎症を抑えることにより腎症の発症・進展が抑えられるという結果が得られていますので、臨床の場においても炎症をコントロールすることが治療効果に繋がる可能性は十分あると思います。
 最近では腎臓でミネラルコルチコイド受容体が活性化されることが、炎症に結びつくためのメカニズムの1つとして注目されています6)。血糖や血圧が十分管理されていても残余リスクがあるといわれており7〜10)、治療ターゲットの1つとして炎症の重要性が注目されています。

糖尿病性腎症重症化予防への取り組み

――先生は長年、岡山県で糖尿病対策に携わってこられました。岡山県の糖尿病対策事業について教えてください。
 岡山県では2012年から糖尿病医療連携推進事業を開始し、「おかやまDMネット」というネットワークを構築しています。
 開始当時、岡山県の県南部には糖尿病専門医が多い一方、高齢化が進む県北部では少ないという医療偏在の問題がありました。また、糖尿病は患者数が多いため、専門医療機関だけで診療するのではなく、専門医療機関とかかりつけ医との間で連携診療を行うことが望まれます。こうした背景から、糖尿病医療水準の向上、医療連携の推進と糖尿病医療の均てん化を目指して、2012年に糖尿病医療連携推進事業が始まりました。具体的には医療機関を「総合管理を行う医療機関(かかりつけ医)」、「専門治療を行う医療機関」、「慢性合併症治療を行う医療機関」、「急性増悪時の治療を行う医療機関」の4つに分けて認定・登録し、この4者による医療連携ネットワークを「おかやまDM ネット」と名付けました(図3)。
 そして、この連携体制をさらに強化する目的で、2014年に「おかやま糖尿病サポーター」制度を開始しました。日本糖尿病療養指導士(CDEJ)は数が少なく、多くは専門医療機関に在籍しています。そこで、糖尿病患者さんを支える医療スタッフをより多く育成する目的で、当事業が実施する所定の研修(インスリン自己注射や自己血糖測定などの実技を含む)を受講した医療スタッフに対し、県知事が「おかやま糖尿病サポーター」として認定する事業を開始しました。認定後も所定の研修を受けていただき、3年ごとに認定を更新するシステムとなっています。現在約1,600人のサポーターが認定されており、総合管理医療機関(かかりつけ医)や薬局、訪問看護施設、介護施設、保健所などで、患者さんの身近な存在として活動しています。新型コロナウイルス感染症の影響で対面での研修会の開催が難しい状況ですが、e-ラーニングやウェブ研修会で研修できるシステムも用意しました。
 おかやまDMネットでは特にウェブサイトに力を入れており、多くのアクセスを頂いています。ここでは、おかやまDMネットの会員が、糖尿病治療に関する新着情報や研修会に関する情報を入手したり、e-ラーニングを受講することができます。医療スタッフからの糖尿病診療に関する相談を、メールで受け付ける窓口も備えています。また、患者さんのための糖尿病教育資材をダウンロードできるシステムや、患者さんを紹介するための情報を掲載した「かかりつけ医ハンドブック」を用いてウェブ上から医療機関を検索する機能も備えており、医療連携に役立っています。

図3 おかやまDMネット

おかやまDMネット

(おかやまDMネットウェブサイト)

――岡山県の糖尿病性腎症重症化予防プログラムと今後の展望について教えてください。
 岡山県においても、糖尿病重症化予防プログラムを実施しています。国民健康保険(国保)の特定健診を受診した人のうち、糖尿病や糖尿病性腎症が疑われる方に、継続的な治療を行うためのプログラムで、市町村によって多少基準や方法が異なる部分があります。岡山方式のプログラムでは、特定健診受診者のうち「空腹時血糖126mg/dL 以上または随時血糖が200mg/dL 以上あるいはHbA1c 6.5%以上」を満たす方に受診勧奨します。かかりつけ医や患者さんの希望する医療機関がある場合はそちらへ、ない場合にはおかやまDMネットを利用しお住まいに近い医療機関を紹介することとしています。受診後は、そのままかかりつけ医への受診を続けてもらいますが、尿蛋白が多い場合や腎機能が低い場合には、専門医療機関との連携診療を推奨しています(図4)。

図4 糖尿病性腎症重症化予防プログラム〜岡山方式〜

糖尿病性腎症重症化予防プログラム〜岡山方式〜

(おかやまDMネットウェブサイト)

 また、糖尿病性腎症の治療については、「糖尿病性腎症の診療の手引き」を作成してウェブ上に掲載しています。
 今後の取り組みとして、2022年から岡山県全体としてのアウトカム評価をスタートしました。岡山県内の全27市町村の担当者と協議を行い、統一して実施できるアウトカム評価の方法を検討しました。その結果、岡山県国民健康保険団体連合会(国保連合会)の協力により、国保データベース(KDB)を用いたアウトカム評価を行うことになりました。(図5)
 この方法では、市町村の保険者が受診勧奨の対象者リストを作成して、国保連合会に送付します。国保連合会は対象者の検査値や問診項目、受診勧奨後の医療機関受診状況などのデータをKDB から抽出して岡山県に送付し、岡山大学病院でそのデータ(匿名化済み)を集計・解析して市町村の保険者にフィードバックする計画です。多忙な市町村の担当者の負担をできるかぎり減らして、効率的にアウトカム評価ができるのではないかと期待しています。また、一部の市町村では、受診先の医療機関でアルブミン尿を測定して、そのデータを経時的に集計する取り組みも進められています。これらの取り組みは始まったばかりですが、岡山県全体で取り組める糖尿病性腎症対策を目指してアップデートしていければと思います。

図5 KDBを用いたアウトカム評価

KDBを用いたアウトカム評価

(四方先生ご提供)

文献

1)
Yokoyama H, et al. Diabetes Care 2007; 30: 989-992.
2)
Shikata K, et al. J Diabetes investing 2020; 11: 325-332.
3)
Matsushita K, et al. Lancet 2010; 375: 2073-2081.
4)
第1〜6回NDBオープンデータ
5)
Okada S, et al. Diabetes 2003; 52: 2586-2593.
6)
Nishiyama A. Hypertens Res 2019; 42: 293-300.
7)
Perkovic V, et al. N Engl J Med 2019; 380: 2295-2306.
8)
Heerspink HJL, et al. N Engl J Med 2020; 383: 1436-1446.
9)
Wheeler DC, et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2021; 9:22-31.
10)
Alicic RZ, et al. Clin J Am Soc Nephrol 2017; 12: 2032-2045.

記事作成日:2023年3月

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