L-FABPを診る
L-FABP(肝臓型脂肪酸結合タンパク)※は、腎臓の近位尿細管に存在する脂肪酸結合タンパクで、尿細管の機能障害を伴う腎疾患の早期診断に有用なマーカーです1,2)。慢性糸球体疾患、糖尿病性腎症を含む心腎イベントの予測や治療効果の評価における活用にも期待が寄せられています2,3)。
※尿中L-FABP(liver-type fatty acid binding protein)の基準値は 、8.4μg/g・Cr以下4)
他のマーカーとどこが違う?
L-FABPは、腎機能の障害をより早い段階から捉えることができます5-7)
よく知られた指標としては、糸球体の濾過機能が破綻した結果として発現する尿タンパクなどがありますが、腎臓の機能障害がある程度進行してからでないと慢性腎臓病(CKD)を発見することが難しいのが現状です。一方、L-FABPは腎微小循環障害を反映する虚血・酸化ストレスのマーカーであり、腎臓の虚血による尿細管障害を反映するため、より早い段階で腎障害を捉えることが可能です。つまり、L-FABPは微量アルブミンよりも早期から尿中に出現するため、より早い段階で腎障害を検出できることから、腎障害の早期介入に有用である可能性があります。
最近では、測定法の進歩により、外来でも手軽に測定できるようになりました。
L-FABPで糖尿病性腎症の進行リスクがわかる?
尿中L-FABPは、尿中アルブミンに比べて高い感度で、腎障害の進展を早期に見極めることができます
糖尿病性腎症患者における尿中L-FABPは腎症病期の進展とともに増加し、腎症早期(正常アルブミン尿期)から有意に高い値を示すことから、糖尿病性腎症の早期診断に有用です(図1)3)。
図1 糖尿病性腎症のステージ別にみた尿中L-FABP3)
Adapted with permission from Kamijo-Ikemori A, Sugaya T, Yasuda T, et al., Clinical significance of urinary liver-type fatty acid-binding protein in diabetic nephropathy of type 2 diabetic patients. Diabetes Care. 2011; 34(3):691-696.(doi: 10.2337/dc10-1392). Copyright 2011 by the American Diabetes Association.
目的:2型糖尿病患者における糖尿病性腎症の予後マーカーとしての尿中L-FABPの臨床的有用性を検討する。
対象:2型糖尿病患者140例と健康対照群412例。
方法:尿中L-FABP値と糖尿病性腎症との関係を横断的、縦断的に解析した。尿中L-FABPは、酵素結合免疫吸着法で測定した。横断的解析では、糖尿病性腎症の重症度と尿中L-FABPの関係を、縦断的解析では、尿中L-FABPと糖尿病性腎症の重症度との関連を調べた。2群間の比較にはunpaired t検定またはMann-Whitney U検定を用いた。各糖尿病性腎症群と対照群の比較にはSteel法、糖尿病性腎症群4群間の比較にはKruskal-Wallis検定とSteel-Dwass法を用いた。糖尿病性腎症群4群間の正規分布変数の比較には一元配置分散分析、カテゴリ変数の比較にはカイ二乗検定を用いた。
3)Kamijo-Ikemori A, et al. Diabetes Care. 2011; 34(3): 691-696.
L-FABPは心腎イベントの予測に活用できるか?
尿中L-FABP高値は、心腎イベントの予測因子となります
CKD患者244例を4年間追跡した研究によると、糖尿病の有無に関わらず尿中L-FABPが高値であれば心腎イベントリスクの高いことが報告されており(図2)8)、尿中L-FABPは心腎イベントの予測因子となることが示されています。
図2 慢性腎臓病患者における心腎イベントと尿中L-FABPの関連8)
目的:尿中アルブミン、尿中N-アセチルグルコサミニダーゼ、尿中L-FABPが末期腎不全と心血管疾患の予測因子であるかを検討する。
対象:3ヵ月以上受診しているCKD外来患者244例。
方法:多施設共同前向き観察研究。主要評価項目は、非致死的/致死的心血管疾患イベントの初回発症および透析開始と定義される末期腎不全への進行(追跡期間中央値3.8年)。Kaplan–Meier法により各群のイベント非発生曲線を求め、log-rank検定により比較した
8)Matsui K, et al. Clin Exp Nephrol. 2016; 20(2): 195-203.
L-FABPによる心疾患患者の腎障害予測
L-FABPは、心疾患患者における腎障害の予測因子です
尿中L-FABPは、心血管手術患者の急性腎障害発症9)、ステント留置術後の急性腎障害発症10)の予測因子となることが示されています。また、造影剤投与前の尿中L-FABP値により、造影剤腎症を高感度に予測できることがわかっています11)。
L-FABPの保険適用条件12)
L-FABPの保険適用条件は以下のとおりです
測定内容 | 尿中L-FABPの測定(尿細管機能障害を伴う腎疾患の診断の補助) |
---|---|
主な対象 | eGFR≧60の継続的に治療を受けている糖尿病患者、糸球体腎炎などの慢性腎臓病が疑われる患者 |
有用性 | 腎機能が低下する以前の糖尿病患者に対して、本検査を行うことにより糖尿病性腎症の病期進行リスクを判別し、また治療効果の判定にも使用できる可能性がある |
留意事項 | ・原則として3ヵ月に1回の測定 ・レセプト必須記載項目 「尿細管機能障害の疑い」もしくは「尿細管機能障害を伴う腎疾患診断の補助」と診療報酬明細書の摘要欄へご記入下さい |
12)厚生労働省. 中央社会保険医療協議会総会(第194回)議事次第. 臨床検査の保険適用について
診ていくポイント
- L-FABP検査は尿検査なので簡便に実施できる
- L-FABPは尿中アルブミンよりも高い感度で腎疾患の進行・悪化を予測できる
- 尿中アルブミン定量測定に加え、L-FABPは糖尿病性腎症の早期診断のための新たな指標として期待されている
References:
1. Veerkamp JH, et al. Biochim Biophys Acta. 1991; 1081(1): 1–24. 2. Kamijo A, et al. J Lab Clin Med. 2004; 143(1): 23–30. 3. Kamijo-Ikemori A, et al. Diabetes Care. 2011; 34(3): 691-696. 4. BML 臨床検査事業 検査案内 http://uwb01.bml.co.jp/kensa/search/detail/3802574(2021年5月閲覧) 5. Kamijo-Ikemori A, et al. Nephrology (Carlton). 2011; 16(6): 539-44. 6. 菅谷健, PHARM STAGE. 2010; 10(5): 55-58. 7. 稲熊大城 他, 日腎会誌. 2017; 59(2): 65-73. 8. Matsui K, et al. Clin Exp Nephrol. 2016; 20(2): 195-203. 9. Matsui K, et al. Circ J. 2012; 76(1): 213-220. 10. Obata Y, et al. J Anesth. 2016; 30(1): 89-99. 11. Manabe K, et al. Eur J Clin Invest. 2012; 42(5): 557-563. 12. 厚生労働省. 中央社会保険医療協議会総会(第194回)議事次第. 臨床検査の保険適用について https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001joq8-att/2r9852000001joww.pdf(2021年4月閲覧)