― NPO法人日本腎臓病協会では各地の診療連携体制の構築にも取り組んでいますが、吉田先生は南北海道ブロックの都道府県代表を務めておられますね。
吉田先生 はい。広大な北海道は地域によって医療資源の状況がそれぞれ違います。腎臓専門医が不在のエリアも多く、腎生検などの専門的な検査が必要になった場合には、数時間かけて都市部の病院に行かなければならない地域もあります。リソースが少ないエリアでCKDの患者さんを診てくださっているかかりつけ医の先生方には感謝の気持ちばかりですが、だからこそ、必要なタイミングで腎臓専門医に紹介していただけるように、診療連携体制を構築していかなければなりません。治療について相談する腎臓専門医がいないエリアでは、たとえばリモートで相談ができるようなネットワークづくりもできればよいと考えています。
― 貴院は地域のCKDの医療連携ネットワークにも参加しているとお聞きしています。
吉田先生 札幌市東区、北区、石狩市を中心に2020年に発足した「さっぽろ北部CKDねっと」に参加しています。
札幌市を含む札幌医療圏は北海道では比較的腎臓内科のある病院が多い地域ですが、東区、北区にはあまり多くありません。日本腎臓病協会で地域の連携構築を推進する中で、札幌医療圏ではどのように進めていくか模索していたところ、札幌市東区、北区、石狩市を含むエリアでCKDの地域連携を構築したいというお話があり、この地域の開業医である、みきファミリークリニック(東区) 院長 三木敏嗣先生が中心となって、さっぽろ北部CKDねっとが立ち上がりました。当院は東区に隣接する中央区にあり、JR札幌駅や地下鉄の駅に近く、東区や北区からも患者さんが治療に訪れます。そこで、患者さんのアクセスのよい専門医療機関として当院もネットワークに参画し、私は立ち上げに携わるとともに、世話人の一人を務めています。
― さっぽろ北部CKDねっとの取り組みについて教えてください。
吉田先生 さっぽろ北部CKDねっと発足の目的の1つは、かかりつけ医が、患者さんの腎機能が悪化した時や尿異常が出た時にどこに紹介すればよいかがわかるよう、紹介先の腎臓専門医療機関の情報を可視化することでした。腎臓専門医が多くはないこの地域では、紹介先を探すことが少し難しくなっていたためです。そこで、まずホームページを立ち上げ、地域の腎臓専門医がいる施設をリストアップして、外来の診療時間、予約窓口の電話番号、さらに栄養指導や透析を行っているかなどの診療内容を一覧にして掲載しました(「さっぽろ北部CKDねっと」
http://se-zaitaku-care.jp/network/ckdnet.html )。
一方で、腎臓専門医からも、一緒に患者さんを診ていただけるように逆紹介先も可視化してほしいという要望があがっています。また、専門医だけ掲載して患者さんの流れが一方通行のように見えると、「患者さんが戻ってこないのは」と心配される先生もいるのでないかという懸念もありました。そのため、かかりつけ医としてCKDの患者さんの受け入れが可能な先生方のリストについても、掲載に向けて動き出しているところです。
― ホームページには「CKD患者診療情報情報共有シート」も掲載されています(図3)。
吉田先生 これは、主な診療情報を1枚のシートにまとめ、かかりつけ医と専門医の間で共有するためのものです。かかりつけ医の先生には、患者さんの状態が紹介基準のどこに該当するかとともに、栄養指導や併診を希望するかなど、診療情報提供書だけではわからない点についても記載してもらうようになっています。専門医からは、どういった場合に再紹介をしてほしいかといった、主に今後の治療の方向について記載します。
― 双方の良好な意思疎通を目指した取り組みですね。
吉田先生 はい。さらに、半年に1回の勉強会の開催も決まっています。すでに多くの先生がこのネットワークに賛同してくださっているので、様々なテーマを取り上げ、毎回たくさんの先生方に参加していただいてお互いの顔が見える場にしようと、連携の充実に向けて話し合っています。こうしてさっぽろ北部CKDねっとという連携の枠組みができたので、今後、地域で立ち上がる新たなCKDネットワークの1つのモデルケースになればと思っています。
― 腎臓専門医とかかりつけ医の先生方の連携体制の充実が、CKDの治療を支える取り組みだとわかりました。
吉田先生 患者さんが治療を続けやすい環境をつくり、透析導入を減らすことがCKDの医療連携の目的です。CKDの患者さんの紹介先を決めているかかりつけ医の先生もいると思いますが、紹介の予約が取りにくい時もありますから、連携先や参加されるネットワークは複数あってよいのだと思います。一方で、紹介先を持っていない医療機関もまだまだありますので、より多くの先生に連携に参加していただくために、どのような働きかけを行っていくかが今後の課題だと考えています。